(BL/OS/お山妄想小説)

*SFファンタジー小説

 

 

(4)

 

手紙を、覚えるほど読み返した。

 

差出人の櫻井翔って、どんな人?

 

やっぱり、この宛名の大野智様って、俺と同じ名前の間違いかな?

 

……もうぐるぐる考えて、何も手に付かなかった。

 

 

 

「……腹減ったなあ」

 

気が付けば、もうお昼近かった。

 

「何か食べに行くか」

 

そう言えば、今日は打ち合わせがあったな。

 

打ち合わせの会社のそばで食べようか。

 

急いでシャワーを浴びて、着替えて家を出る。

 

家の前にポツンと立つポストは、生きてるみたいに思えた。

 

ポストを手で、コツンとノックするように叩いてみる。

 

 

「お前、どうなってんの?」

 

ポストを開けても、やっぱり何も無い。

 

「……行ってくるよ」

 

ポストに、言って仕事に向かった。

 

 

――――――

 

 

打ち合わせまでは結構時間があったから、適当な店で食事して町を歩く。

久しぶりの都会は、物凄い音と人の多さが懐かしい。

 

「たまになら、良いんだけどなあ」

 

久しぶりの喧騒は、そう嫌じゃ無かった。

これは、発見だな。

 

交差点の歩道で信号待ちをしてると、向かい側から凄い綺麗な男性が歩いてきた。

 

大きな目がクリッとした、ふっくらした唇の可愛い顔。

スーツ姿の長い足に、垢抜けた都会の美人だった。

 

急いでるらしい、すれ違う彼を目で追った。

 

「可愛いなあ……」

 

何人かが、俺と同じように彼を振り返るけど、本人は気が付いてないようで。

 

「自分のこと、分かんないんだろうなあ」

 

美人って、そういうもの。

自分を美人だって態度を取るのは、大抵が化粧美人だ。

その自信は、努力してるから、とも言うんだけど。

 

「やっぱり天然の美人は、違うなー」

 

手紙の彼の顔って、どんなだろうか。

今の人みたいだと良いなあ……なんて思ったりした。

 

 

――――――

 

 

仕事の打ち合わせが終わって、色々買い物してたら遅くなった。

 

やっと家に辿り着いて、ポストの前を通る。

 

そっと片手でポストを開ける。

 

「入ってるわけないか」

 

空っぽのポストの扉を閉めて、家の鍵を開けた。

 

 

――――――

 

 

手の捻挫も、治ってきたから絵を描くことにした。

 

「今日の美人さん、描いてみようかな」

 

印象的な瞳と唇を描いてみる。

 

「もっと……こうだったかなあ」

 

一瞬のことだったから、印象しか残ってない。

 

ただ、とても好きな感じだった。

 

「え……っと」

 

集中すると、何も分からなくなる。

 

時計の音も、風の音も聴こえない。

 

ただ、目の前の絵が、動いて変わっていくだけ。

 

気が付けば、明け方で。

 

「疲れたなあ……」

 

時計の音が戻ってくる。

 

その音で、時計の方を見た。

 

「ああ、また朝になっちゃうなあ」

 

また手紙を読み返してると。

 

ふと気になって、外のポストを見に行った。

 

ポストの前に行くと、またガタンと音がした。

 

「あ……」

 

開ける前から、今度は分かった。

 

ポストを開けると、また手紙が入っていた。

 

その日から、不思議な文通が始まったんだ。

 

 
 
続く
 
 
 
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