(BL/お山SO/妄想小説)

 

 

side  翔

 

教師と一緒に智君と二宮君を病院に連れて行き、病院へ来た警察に簡単な事情説明をして。(やり過ぎの正当防衛で、怒られた)

 

駆けつけた二宮君の親御さんに挨拶して帰宅した。

 

二宮君のケガは、すぐ治る程度で、神経も無事だった。

 

「良かった……」

 

智君は、家に帰るまで、ずっと泣きっぱなしだった。

 

さぞ、ショックだったんだろう。

 

全く、なんて男なんだ。

 

色々、経緯を聞いて更に、腹が立った。

 

 

 

 

「智君、疲れただろ? お風呂入る?」

 

「まだ……いらない」

 

しょんぼり座って後ろを向いてる背中が、小さく見えた。

 

心がキレイな智君は、怪我をした子と同じように傷付いてる。

 

 

 

「智君ごめん……」

 

可哀想で、後ろから抱きしめた。

 

「翔ちゃんが謝ることないよ」

 

「怖い思いさせて、ごめん」

 

 

 

そう、智君が泣いてる理由のいくらかは、俺のせい。

 

俺を心配もしただろうけど、俺が我を忘れて、男を殺さんばかりにしてしまったせい。

 

すぐカッとなる俺を知ってる智君は、怖かったはずだ。

 

俺が誰かを殺すかも知れない……そう思って。

 

 

「怖かったよ……翔ちゃん」

 

そう言って智君も、向きを変えて抱きついてきた。

 

 

「うん……ごめんね、お詫びになんでも言って?」

 

ちょっと、黙ってから智君が言う。

 

 

 

「バレンタイン欲しい……翔ちゃんから」

 

「え? ……チョコ?」

 

「なんでも良いから、翔ちゃんから欲しい。これから一生俺にバレンタインして欲しい……」

 

ぎゅっと抱きついて、必死で言うのが、可愛すぎる。

 

 

「一生なの?」

 

「一生一緒にバレンタインしたい」

 

 

嬉しいけど、迷ってしまう。

 

「智君は……これから色んな人に出会ってさ……」

 

言いかけた俺を遮って、智君が言い出した。

 

「色んな人なんか要らない!」

 

「智君……」

 

俺を見上げる智君は、怒ってるようだった。

 

「俺、母ちゃんや父ちゃんと約束したもん。翔ちゃんを一生守るって。幸せにするって。母ちゃん許してくれたもん」

 

「え? ……」

 

 

 

 

「だから、翔ちゃんだけでいい。友達もニノだけでいいし。たくさんの人なんか、要らない。良いでしょ?」

 

まだどこかで、智君は人を信じてないのかも知れない。

 

生い立ちは複雑な子だ。

 

 

 

「でも……」

 

「翔ちゃんは、俺以外がいっぱい欲しいの?」

 

 

 

言われて、ドキッとする。

 

真剣に見つめる瞳に、嘘はつけない。

 

 

 

「要らないよ……智君だけだよ」

 

 

 

参りました……本当に、君には敵わないよ。

 

そう言って、可愛い天使のような智くんの唇を奪って。

 

久しぶりに、甘い夜を過ごした。

 

 

 

***

 

 

 

幸せなバレンタインデーが終わって、二宮君がお礼を言いに家まで、来てくれた。

 

「もう大丈夫なの?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「座ってて? なにか、飲み物入れてくるからね」

 

痛々しい包帯姿だけど、明るくて元気そうだった。

 

俺が一人でキッチンに行くと。

 

リビングに二人で座って、大声ではしゃいで、話し出す声がする。

 

 

 

「ニノ、翔ちゃんが、○ッチしてくれたっ♡!!」

 

「本当? 良かったね♡」

 

 

 

思わず、ガシャンと音を立てて食器を落としてしまった。

 

え……?汗うさぎ

 

き……聞き間違いかな?

 

はしゃぐ天使たちの声がする。

 

 

 

「どんなのだったの♡」

 

「すげー気持ちよかったぞ♡」

 

「えー? 気持ちいいの?」

 

「あ、でも○○は痛いけどっ!」

 

 

 

……だめだ。

 

しまった、智君に人には言うなと言ってなかった。

 

素直すぎる天使に、俺はどんな顔をして、出ていけばいいか分からずに、空を仰ぐ。

 

 

「本当に……参った」泣

 

 

天使の羽を持つような恋人には、これから苦労させられそう……。

 

 

 

「翔ちゃーんっ、ジュースまだー?」

 

智くんの声に、俺は覚悟を決めた。

 

「今、いくー……」

 

どうせ天使に人は、敵わないんだから。

 

 

 

 

バレンタイン編<おしまい>照れ飛び出すハート