*嵐妄想

*BL小説

*お山妄想

*お話の全てはフィクションです。

 

 

(5)

 

ミンのアルバイト代理は、1日だけだった。

 

あの後、まだ櫻井翔という人は来店していないらしい。

 

「ミン、あの人どうして知り合ったの?」

 

「チラシ貰ってくれた」

 

「それで、来たの?」

 

「他の人はね、チラシも貰ってくれないけど。あの人は僕が転んだから、一緒に荷物持って駅まで送ってくれた」

 

「え?」

 

「良い人」おねがい

 

「そうだな……」

 

でも、そんな良い人なら、尚更この地域は来ちゃいけない気がする。

 

「でも、危ない思う。あの人、親切過ぎる」ニコニコ

 

「そうだな」

 

「あの人、この辺の子供にねだられたら、なんでも買っちゃう」キョロキョロ

 

「ええっ」あせる

 

「子供ら、お腹空いてる子多い。最近は、お菓子持って来る。それで会った子にあげてる」

 

「なんで、止めないんだよ?」

 

「止めた。キリがないから。でも」

 

「でも?」

 

「出会った子だけでも、お菓子食べられたら、それで自分が嬉しいからって」おねがい

 

「……」

 

「だから、送り迎えしてる。子供だって、一緒の大人が危ないから」

 

「……迎え? 連絡とってるの? それって皆んなにしてるの?」

 

「ううん。あの人だけ。だってチラシで来てくれたのあの人だけ。100枚配ったけど」

 

「……。来る時、連絡するの?」

 

「うん。でも僕がいない時は、来ないでねって言ってる。危ないから」

 

「俺を見たって言ってた」

 

「ああ、そうなの! 智さん歌とダンス上手い。とっても上手いから。ベルの子供と遊んでるの見て感動してた」

 

ベルっていうのも、ダンサーで。

 

その子供は7歳なのに、テレビで見るどのダンサーより、リズム感が良くてハイトーンボイスで歌って踊る。

 

俺も詳しくないけど、天才だなって思ってる。

 

だから、その子と一緒に歌って踊ると、上手くなったのかも。

 

「翔さん、智さんのこと、大好きよ? 僕わかる」

 

「え?」

 

「なぜか、送り迎えの時、いつも智さん踊ってるの見る。すごい偶然」

 

「そうだよな……」

 

毎日、踊ってるわけじゃない。1日中踊ってることもない。

 

「いつも、感動してる。これって縁なのかなって言ってたよ」

 

「縁……」

 

「日本人の人、縁の話する。良い縁と悪い縁とか」

 

「そうかも。俺は気にしないけど」

 

「クリーニング店、僕卒業したら閉店ね。社長言ってた」

 

「え。卒業したらって、卒業したじゃん。この間」

 

「そうなの。だから今日で閉店したよ」

 

 

閉店。

 

ミンのために、開けていたのかもしれないクリーニング店だった。

 

遠くからの客が多かったけど。(あの爺ちゃんの知り合いかな?)

 

ミンが呼べたのは、櫻井翔さんだけ。

 

ミンのバイトは、卒業した今は、必要ない。

 

もうすぐ、国へ帰るからだ。

 

国に残してきた兄弟の具合が悪いせいもある。

 

母ちゃんも、一緒に帰国するそうだ。

 

そうすると、あの櫻井翔さんも、もうここへ来なくなる。

 

「そっか……」

 

そうなのか、じゃあ、2度と会えないんだな。

 

彼の綺麗な顔と、あの日の桜吹雪が、頭の中に浮かんだ。

 

綺麗な姿のまま、綺麗な心根の人。

 

 

 

……寂しい。

 

誰かと会えなくなることが、寂しいって初めて思った。