嵐 OS ・お山妄想です

BL妄想

お話の全てはフィクションです

 

 

 

 

side 智

 

結局、休みの間中は、カズヤからの連絡は来なかった。

 

俺よりも、翔が毎日毎日、待ってくれているのが申し訳ない。

しまいには、『あの人、ひどいよね!』って本気で怒ってるから、笑うと俺まで怒られた。

 

「なんで、笑ってんの!」

 

「翔が可愛いから」

 

「はあああ?」

 

嘘じゃないのに。

翔は、すぐ怒って膨れるんだ。

自分が、どれくらい綺麗で可愛いか、分かっていないから。

そんなところも、やっぱり可愛くて。

 

もう、俺はいいかなって思ってる。

生きてるって、教えてくれたんだから。

 

『無事じゃ無かった』ってのが気になるけど。

あの男は、カズヤをちゃんと世話してくれるんだろう。

 

カズヤのおかげで、翔とやり直せた。

それは、命がある間しか、会えないって教えてくれたから。

カズヤにも、逢いたいって思うけど、俺の我儘な気がする。

 

 

でも、その日はやって来た。

 

 

 

 

 

猛暑が過ぎて、秋が来た頃。

 

白い壁のアトリエには、俺と翔だけ。

あの個展の成功で、たくさんの絵が売れて、新しい仕事が増えた。

そのお金で、アトリエを買ったんだ。

 

 

小さいけど庭もあって、アトリエの2階は、事務所にした。

翔が会社を辞めて、色々な事務仕事をしてくれるから、24時間一緒にいられるようにもなった。

 

昔、望んだ生活だった。

初恋で、世間知らずな俺の夢は、大好きな先生と一緒に暮らす事だったから。

 

 

「暑いけど、たまに涼しい風が吹くよねえ。もう秋なんだ」

 

「そうだなあ」

 

二人で、休憩しようかと庭に出た時。

 

家の前には、白い車が止まった。

 

「誰?」

 

「もしかして」

 

 

 

車が止まって、男性が出て来た。

 

男性は後部座席を開けると、細身の人を抱き上げてこちらを見た。

 

 

「カズヤ……」

 

「二人とも、変わんないなあ」

 

「カズヤ君!」

 

駆け寄ると、あの個展へ来た男性に抱かれたカズヤは笑った。

 

細く白くなっていたけれど。

足は、不自由なのがすぐ分かるほど、痩せていたけど。

 

ふふって、口元だけで笑って言う。

生意気そうな、相変わらずの口調で。

 

「せっかく来てあげたんだから、美味しいもの用意してよ」

 

生意気そうに言うけど、食事に興味もなかった子だった。

一緒にいる男は、ちゃんと食べさせてるんだって、ほっとした。

美味しいって思うのは、幸せの最初の一歩だから。

大切にされてるなら、嬉しい。

 

 

「今まで、ずっと連絡待ってたんだぞ」

 

思わず、言ってしまった。

 

「ああ、そう? ごめん。カッコ悪いじゃん。寝たきりなんてさ」

 

カズヤは、なんでもない事のようにいう。

あの怪我は、思いの外ひどかったんだろう。

他にも、病気でもあったのかも知れない。

いなくなる前から、少しカズヤは具合が悪そうだったから。

 

 

「やっと、ここまで元気になったんですよ」

 

カズヤを抱く男は、別人のように優しい声で微笑んだ。

 

「この人がさ、俺をずっと助けて世話してくれてんの。なんでか知らないけど」

 

嬉しそうに、カズヤも微笑んだ。

 

「それって、自由になったの?」

 

翔が聞いて、俺も答えを待った。

 

 

 

「そうだな。俺のボスは、この人になっただけだけどね」

 

「ボスって……」

 

不満そうな男の顔は、意外に可愛らしい。

 

でもわかる。

 

きっと、今度は幸せにしてくれる。

 

色々な事情は分からないけど、そう思った。

 

 

 

 

「こんなの……夢みたいだよ、嬉しい」

 

翔がそう言って、優しく微笑む。

 

「うん……」

 

 

 

 

人生は、まだ始まったばかり。

でも、もう何が起こっても大丈夫だと思う。

 

俺は、諦めずに、ちゃんと生きていく。

 

大事な人を守る為。

大事な人と一緒にいる為。

夢をみるように、現実の世界を強く生きて、楽しめると思う。

 

 

母ちゃんの恋は、俺を孤独にしたけれど。

俺の恋は、孤独の中で生まれたけれど。

先生が、俺に夢をくれて。

俺の夢を叶えてくれたから。

 

 

俺のこれからは、先生の幸せの為に。

周りの人の幸せの為に、生きていこう。

翔は、これからも、俺の夢の先生だ。

 

 

 

「智、一人で、さっきから笑ってんじゃねえよ」

 

「うるさいっ、カズヤ」

 

 

相変わらずのカズヤに、今度は俺も教えてやらなきゃ。

 

お前を愛してる人のことを。

 

夢を教えてあげたいって、言ったらいうだろうなあ。

 

 

「はあ? キモいよ」

 

翔もきっと、それを聞いて笑うんだろう。

 

……この夢に見た世界で。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

夢でも良いから逢いたい

 

あなたに逢いたい

 

あなたが消える夢なら、一緒に消えてしまいたかった

 

 

 

 

 

 

 

消えた夢は、夢のまま

 

今もずっと、あなたが好きだから

 

ただ、逢いたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっと、そう思ってた。

 

あの日の俺と翔は、もういない。

 

 

 

「やっと、逢えたね」

 

「うん」

 

翔がそう言って、照れたような、カズヤと微笑みあっていた。

 

 

 

 

 

 

 

<end>

 

 

 

最後まで読んで下さってありがとうございます。

リクエストくださった方、ありがとうございました。

時間がかかって、お待たせしてすみませんでした。

 

2023 / 2 〜 2023 / 8

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書きながらこの曲をずっと聴いていましたね〜ラブラブ

ニコニコ飛び出すハート