嵐BL妄想(お山OS)

登場人物等全てフィクションです

 

 

 

side 翔

 

 

智が出て行ってからは、ただただ静かだった。

 

俺があの日襲われたのは、カズヤくんの関係だったんだろう。

彼とも智とも離れた今は、普通の社会人の生活だった。

いろんな方に、見合を勧められたりしたけど、丁寧に断ってしまう。

 

智とやり直せるとは思えなかったけど、違う誰かとやっていけるとは思えなかった。

ずっと、このまま一人だろうと考え始めていた。

 

智はどうしてるだろう。

ぼんやり考えながら、買い物でもしようかと駅前を歩いていた。

 

 

「翔さーん!」

 

え?

誰?

見回すと、小さな子供を連れた女性が、手を振ってこちらを見ていた。

 

「あの……」

 

パタパタと駆け寄ってきた女性は。

 

「智のお母さん?」

 

「はい! お久しぶり! 翔さん!」

 

智がそのまま、可愛い女性になったように見える女性だった。

時間が止まってるみたいに若いママ。

その彼女の手を握る男の子。

 

「この子……」

 

「智の弟なの。はい、こんにちはしてね? カズヤ」

 

「コンいちわ♡」

 

「カズヤ?」

 

智にそっくりの女性と、智がそのまま子供になったような2歳くらいの男の子。

しゃがんで、その顔を見る。

ものすごく可愛い。

目元とか、口元とか。

お母さんと智にそっくりだ。

 

「可愛いですね。あの……この子の名前は、智がつけたんですか?」

 

お母さんは、ちょっと困ったような顔になった。

 

「智ね、連絡がなくて。前は、たまに電話くれてたんだけど。この子ができる前から連絡が無くなって。この名前は私が付けたの。アニメから取ったんだけどね。翔さんも、智と会って無いよね?」

 

どう答えようかと思っていたら、不意に男の子が俺の手を握って笑った。

 

「翔」

 

「え?」

 

「翔、翔」

 

「あらあ。もうお名前覚えた? 偉いねえ、カズヤ」

 

ニッコリ笑った男の子の手から、ジワリと温かいものが流れてくる。

 

「翔」

 

名前を呼ばれて、カズヤくんと智の顔が浮かんだ。

 

あんなに智の望んだ弟が、ここにいる。

 

兄弟は家族を本当の家族へ血で繋ぐ。

 

それも同じ名前。

 

智の大好きなお母さんが、知らずに智の夢を叶えてるなんて。

 

 

 

 

「智に、この子と逢いたんだけど……」

 

悲しそうに微笑むお母さんへ、言葉が出なかった。

男の子の手を両手で包んで、話しかけた。

 

「カズヤくん……」

 

「はい、翔♡」

 

血まみれだった最後の顔が浮かんだ。

あの子に呼ばれてるようで。

 

智。

君の夢は、ここに。

カズヤ君、きっと君の夢も同じだったはず。

普通の子供になりたかったはずだ。

 

 

 

「翔さん、どうしたの? 大丈夫?」

 

「翔、どちたの?」

 

二人に、何も答えられなくて。

しゃがみ込んだまま……両手で顔を覆って泣いてしまった。

 

 

夢は、すぐそばにあったのに。

 

いつだってすれ違う。

 

悲しくて、たまらなかった。

 

 

続く