嵐BL妄想(お山OS)

登場人物等全てフィクションです

 

 

 

 

 

side 翔

 

 

まだ、智はボンヤリしているけど、少しずつ元気になって来た。

一緒に食事しながら、よく笑うようにもなった。

 

何でもない1日が、幸せで。

でも。

病院は、変わらずカズヤ君の事は教えてくれない。

カズヤ君の最後に言った言葉が、忘れられない。

 

『……いい? 俺が死んでも……智には……言うな……』

 

もしもの事があったら、生きている事にしてくれって事なのか。

智と暮らしていたなら、俺より智に詳しいはず。

 

自分が死んだ後の智を思って、言ってくれたに違いない。

孤独な智を救ってくれたカズヤ君。

 

弟のようだった彼が死んだら、智はどうなるか分からないと。

自分が死にそうな時、そんな事が言えるなんて。

 

俺は、この事を智に伝えるべきか悩んでいた。

 

 

 

+++

 

 

 

結局1週間を、カズヤ君のマンションで、二人で待っていたけれど帰って来なかった。

 

万が一の場合が、頭に浮かんで消えてくれない。

智も、カズヤ君の事情や家族の事は、何も知らなかったらしい。

 

8日目の朝、知らない男二人と引越し業者がやって来て、俺たちは追い出されてしまった。

 

「カズヤは? 連絡先を教えてくれ」

 

智が、男二人に何度も頼んだが『知らない、そんな人物はこのマンションの持ち主ではない』と言われて。

泣く泣く、引き下がる他なかった。

 

翌日、マンションへ行くともう誰もいなかった。

まるで、夢だったかのよう。

カズヤ君は、確かに居たはずなのに。

 

智を連れて、俺は自分のマンションへ帰ったんだ。

 

 

 

+++

 

 

 

有給休暇がもう少し残っていたから、会社に頼んで休ませて貰った。

繁忙期でもなかったし、知り合いの紹介で入った身なので、特別待遇なようだ。

 

今までの俺なら、こんな待遇を受けるのを躊躇ったけれど、ありがたく受けた。

……まだ不安定な智が、心配だったから。

 

いざとなったら、転職するつもりだったし。

今は、ただ智の心を癒したかった。

 

 

 

 

 

料理も、掃除も、苦手な俺の代わりに、智は何でもしてくれた。

俺はやり方を智に、教わるようになった。

 

「カズヤにも、よく教えたんだ」

 

嬉しそうに話す姿に、胸が痛んだ。

せめて、彼が無事だとわかる方法があれば。

 

それでも、二人でいると嬉しくて。

それこそが、夢みたいだ。

 

2度と会えないと、思っていた。

再会しても、もう遠い存在になったと。

 

結局、勇気がないだけで。

もう教師でも、生徒でもなかったのに。

自分から、智へ走る勇気が無かった。

 

待っているだけで。

待ってくれている事にも、気が付かなかったんだ。

 

 

 

二人で、のんびり夕食の用意をしている時、ふと黙り込んだ智。

 

「どうしたの?」

 

「翔……、翔はどう思う?」

 

「え?」

 

「俺……カズヤは、助かったと思ってる」

 

「うん……」

 

ぎこちなく返事してしまう。

 

「でも……翔は、違うでしょ? どう……思う?」

 

俺をまっすぐ見て、不安そうな顔で智が言う。

 

なんて言えば、正解?

 

綺麗な揺れる瞳が、泣くのは見たく無かった。

 

カズヤ君、どうしたらいい?

 

 

 

 

「……生きてると思う。きっと」

 

俺の言葉で、智は、パッと明るい顔になった。

 

「本当? そう思う?」

 

「思うよ、必ず会える。諦めないでいよう?」

 

「うん」

 

 

なんだか幼くなったような智が、俺に抱きついて笑ってくれた。

 

可愛くて、抱きしめ返す。

 

 

 

 

 

カズヤ君、お願いだから出てきて。

 

それが無理なら、せめて夢で逢ってあげて欲しい。

 

……心から、そう願った。