嵐BL妄想(お山OS)

登場人物等全てフィクションです

 

 

 

 

 

 

side 翔

 

 

「待って!」

 

「退け」

 

刺されて気を失ったカズヤくんを抱き上げた男が、何処かに行こうとするから必死で止める。

彼は味方なのか、どうか判らないから。

 

「どこに行くの? 救急車は?」

 

「そんなもの待ってたら、間に合わない」

 

「病院?」

 

縋り付く俺を、男が身体で振り払って歩き出す。

その時、カズヤ君の声がした。

 

「翔……」

 

男が足を止める。

 

「カズヤくん!」

 

慌ててカズヤ君の顔を覗き込む。

 

「約束……」

 

「え? ダメだよっ、死んだりしないで!」

 

また、カズヤ君は気を失ってしまう。

その小さな顔を、男は見つめて眉を寄せた。

 

「……着いてこい」

 

「は、はい!」

 

男は、ため息をつくと歩き出した。

 

ああ、智。

君に知らせたいのに!

連絡先さえも、分からないなんて。

 

彼との距離を改めて、思い知ることになる。

 

 

 

+++

 

 

 

side  智

 

 

仕事が終わって、何とか客やスタッフから逃げてホッとする。

襟元をくつろげながら、一人でフラフラと通りを歩いていた。

 

カズヤ……翔。

どうしてるんだろう。

もう関係ないはずなのに、翔が頭に浮かんでしまう。

 

「早く、帰って来いよ……」

 

カズヤのいない、一人きりのマンション。

帰るのは、億劫で寂しい。

思わず、言葉が溢れて落ちた。

 

 

「智!」

 

「え……?」

 

 

翔そっくりの声に振り返る。

 

 

「まさか……」

 

「智!」

 

誰もいない、明け方の通りには。

シャツを血のような褐色で汚した翔が立っていた。

 

駆け寄ってくる翔を、思わず俺からも駆け寄って肩を掴んだ。

 

「どうしたんだ?! この血は?!」

 

「俺じゃない……カズヤ君の血なんだ」

 

「え? どう言うこと?」

 

「刺された……俺を庇って」

 

信じられない言葉に、俺の声は、すぐ言葉にならなかった。

 

 

あの綺麗な男の声が蘇る。

 

揉め事があるって。この事なのか?

 

「カズヤ君、今、病院なんだっ! 一緒に行こう!」

 

「……」

 

体が震える。

 

一歩も動けない。

 

きっと、顔からは血の気が引いているはず。

 

 

「智! しっかりして!」

 

「……」

 

 

足元が頼りなく、景色がぼやけてグラグラする。

 

カズヤの声が聞こえる。

 

『夢でも逢いたいんでしょう?』

 

 

 

 

俺はいつだって、気が付くのは遅いんだ。

 

……いつだって。