嵐BL妄想(お山OS)

登場人物等全てフィクションです

 

 

 

 

 

side 翔

 

 

可愛い男子生徒は、毎日のように言ってくれていた。

 

『先生! 結婚して!』

 

男の教師への言葉は冗談にしか思えない。

 

他に若い女性教師もいるのに。

 

ずっと、揶揄われてるんだと思ってイライラしていた。

 

 

 

よく見ると、その男子生徒は人気があった。

 

どの子も、彼は良い子だと、優しいという。

 

担任のくせに、自分だけが分かっていない事が分かったのは、家庭訪問の時だった。

 

古いアパートの一室は、その子の家で。

 

資料には、母子家庭とあるのに、一人で暮らしていた。

 

生活費だけ貰っているという。

 

母親は、月に一度。不定期にやってくるらしい。

 

一生懸命もてなそうとしてくれる姿は、可愛かった。

 

可愛い赤いコップ。

 

可愛い座布団を用意してくれていた。

 

誰もこの部屋へ来る気配がない。

 

一人暮らしの空間は、寒々としていた。

 

俺が困って黙っていると、心配そうになって言う。

 

 

「……先生、俺のこと嫌いになる?」

 

「どうして?」

 

「前に、言われたから。仲良かった子の親が、母ちゃんもいない子とは遊ばせたくないって」

 

「ひどい……」

 

本当に驚いて呟いた。

 

「あ、ひどくないよ? 母ちゃん優しいし」

 

分かっていない、優しい親が子供を一人にしない。

 

子供の友達へ、そんな言葉を投げつける他の親もひどい。

 

「そうじゃないよ、友達の親だよ!」

 

母親は、母親だから。

 

友達の親のことだけ言葉にした。

 

でも驚かせたみたいで、彼が急に涙をこぼした。

 

「あ、ごめん! 怒ったのは……」

 

慌てて、慰めようと思ったけど間に合わない。

 

「……ごめん、泣いちゃって」

 

無理に笑おうとしてくれるのが、辛かった。

 

「ごめん、ごめんな?」

 

どうしていいか分からない。

 

まだ高校生の男の子を泣かしてしまった。

 

明るくて、強そうに見えた子は、ずっと繊細で。

 

誰より心が綺麗なんだ。

 

そう思うと自分まで泣けてきた。

 

何も分かってなくて、ごめん。

 

うまい言葉も思いつかなくて。

 

抱きしめて謝るしか出来なかった。

 

「大野、ごめんな」

 

泣きながら、俺にギュッとしがみつく。

 

迷子の子供が、親とやっと会えたみたいに。

 

きっと、溜め込んでいたんだろう。

 

一度泣いたら、止まらなくなった。

 

泣かせてあげなきゃ。

 

けれど結局、俺の方が泣いてしまって意味がないんだ。

 

 

 

普通に何でも与えられてきた自分に、反省した。

 

何も、俺は持っていない。

 

与えられてきた物は、自分に使うばかりで。

 

泣いている子にかける言葉ひとつ、持っていないんだ。

 

 

 

今まで与えてもらってばかりで。

 

何も、誰にも返せていないんだと、初めて思ったんだ。

 

これからは、ちゃんと生きよう、そう誓う。

 

この子が俺の人生を変えるとは、まだ知らなかった。