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(12)

 

 

海のそばの一軒家のアトリエ。

 

「どうぞ、お茶でも淹れますから。好きに座ってください」

 

他人行儀な智君に、悲しかったけど。

 

「はい、ありがとうございます」

 

俺は、営業スマイルで椅子に座る。

 

 

 

 

アトリエは、変わらない。

 

窓からは海が見えて、風が気持ち良く入ってくる。

 

でも、記憶とは少しづつ違う。

 

 

 

部屋の隅に、あの、描きかけの絵が有った。

 

「……え? これは……」

 

その絵は、完成していた。

 

 

 

 

「その絵を見せようと思って、来てもらったんだ。」

 

「大野さん……?」

 

 

 

その絵に描かれていたのは、俺だった。

 

絵の中に、スーツの仕事中の姿の俺がいた。

 

 

 

「ずっと、見てたんだ。やっと会えたね」

 

「どういうこと……?」

 

 

 

彼は、いたずらっ子みたいに笑う。

 

アトリエの机の引き出しから、彼が手紙を出した。

 

俺が出そうとして、出せなかった、事故を教える手紙。

 

 

 

「それ……」

 

「ずっと、会うのを我慢したんだ。運命を変えたくて。2021年なら、無事に会えるかもって」

 

「本当……? 俺のこと分かるの? 知ってるの?」

 

震えて、上手く声も出ない俺を、優しく抱きしめてくれた。

 

 

 

「ねえ、俺は君を信じたよ。だから、俺のこれから話す奇跡のことも、信じてくれる? ……翔ちゃん」

 

「智君……っ!」

 

 

 

抱き合って、運命が変わった事を実感した。

 

 

 

「会いたかったよ……ずっと」

 

「俺も……もう会えないと思った……」

 

 

 

奇跡の理由を聞きたかったけど、そのまま口付けられて愛されて。

 

 

 

「まずは、愛させて。ずっとお預けだったからね」

 

「……俺も……いっぱい愛して欲しい……」

 

 

 

 

……あの日に消えた色が、戻って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深い夜の帷(とばり)が、下りる。

 

目を瞑って想うのは、ただ貴方のこと。

 

どこからか……流れてくる音楽のように。

 

溢れてくるこの気持ち。

 

この気持ちも、音楽のよう。

 

また会えた貴方を、ただ想う。

 

ただ、愛して愛されて。

 

I wish you nothing but happiness.

 

 

 

 

「夜想曲(ノクターン)」<end>

 

 

 

 

 

続編「彼誰時(かわたれどき)」へ続く