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*お話の全てはフィクションです。

 

 

 

 

 

 

(11)

 

もう自棄になって、お酒を飲みまくって、アトリエの床に倒れて寝てしまった。

 

 

奇跡は、もう起こらない。

神様がくれた機会を俺は、失くしてしまった。

 

何時間経ったのか。

 

鳴り続ける電話の音で、目が覚めた。

彼が死んでから、やめてしまった会社の同僚だった。

 

 

 

「……はい」

 

「櫻井? 何してんの?」

 

「何って?」

 

「今日、講演会だぞ。お前が担当だろ?」

 

「俺は……辞めたじゃない」

 

「はあ? 寝ぼけんなよ? さっさと来いよ? もう画家の大野さん来てるぞ?」

 

「なんて?」

 

「大野智さん、お前が担当するだろ?」

 

「そんな……すぐ行く」

 

 

 

電話を切って、気が付いた。

 

自分が、元住んでいたマンションの部屋だった。

 

 

 

「智君と一緒に住む前の……今は、何年なんだ?」

 

スマホを見ると、2021年の10月だった。

 

過去に戻ったわけじゃなかった。

 

 

 

「どうなってる? 大野さん」

 

急いで、講演会会場に向かった。

 

本当に、大野さん……智君なの?

 

 

 

 

******

 

 

 

ドキドキしながら、会場に行くと、本当に智君だった。

 

俺を見て、綺麗な顔で微笑んだ。

 

 

 

「貴方が、櫻井翔さん? 初めまして」

 

「大野さん、初めまして……」

 

 

 

変わらずに、綺麗な瞳で優しい顔だった。

 

彼は生きていた。

 

この2021年の、今日に。

 

 

 

打ち合わせでも、平静を必死で装った。

 

「じゃあ、ここは、どうなるんですか?」

 

「ここは……」

 

綺麗な声に、健康そうな姿に、いちいち、涙が出そう。

 

書類を掴む指までが、懐かしい。

 

あの手で、愛された日々が思い出される。

 

 

 

「これで、以上になります。質問はありませんか?」

 

「いえ。ありがとうございます」

 

 

(もう、他人だもんな……仕事以外じゃ、会えないんだ)

 

悲しさが押し寄せるのを、必死で耐えていた。

 

その俺に、智君がいう。

 

 

「櫻井さん、今日終わったら、時間ありますか?」

 

「え……」

 

 

 

あの日のように、俺は彼の家へ行くことになった。

 

でも、俺たちは他人だ。

 

それでも、嬉しかった。

 

他人でも、こうして会えるなら。

 

 

続く