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(10)

 

「どうして……?」

 

ポストに何度入れても、手紙は消えなかった。

 

何度も出して、入れて、扉を閉める。

 

何十回と繰り返しても、消えなくて。

 

「お願いっ……この手紙が届かないと……智君が……」

 

泣きたい気持ちを堪えて、もう一度ポストに入れようとしたその時に、急にバラバラと……ポストが崩れて壊れた。

 

「……!」

 

呆然とそれを見て、動けない。

 

手紙だけが、この手に残った。

 

「智君……!」

 

もう俺にできるのは。

 

ポストの立っていた足元で、手紙を握りしめて泣き崩れるだけだった。

 

 

 

 

なす術もなく、家に戻って手紙を、アトリエの机の引き出しに入れた。

 

もう、運命を変えられない。

 

もっと早く、この事を伝えていたら。

 

後悔ばかりが溢れて、息が止まりそうになる。

 

あの初めて会った日が思い出された。

 

 

 

 

智君、ごめんね。

 

俺のせいで。

 

俺が手紙なんて送ったから。

 

貴方を死なせてしまった。

 

いっそ、俺が死ねば良かったのに。

 

 

 

アトリエの床に座り込んだ。

 

この絵の具の匂い。

 

智くんの匂いでもある。

 

思い出が、この部屋から湧き上がって見えるよう。

 

 

 

「絵の具の匂いとかさあ、智くんって感じ」

 

「ええ、じゃあ俺って臭いじゃんっ!」

 

「そんな事ない」

 

智くんに抱きつくと、いつも情熱的なキスをしてくれた。

 

激しくて、唇が腫れる日もあった。

 

キスが終わって、彼の胸に顔を埋める。

 

すごい安心感。

 

 

「ずーっと、この匂いを嗅いでたい……」

 

「そう? 俺は……」

 

「わっ……」

 

抱き上げられて、ベッドへ。

 

二人でシーツへ転がった。

 

「俺は、ここでずっと……抱いてたい」

 

「うん……抱いて……ずっと」

 

 

 

 

……思い出は、残酷で。

 

あの思い出と同じベッドに、一人で横になる。

 

このベッドでは、何度も泣かされて。

 

でもそれは、最高に幸せだった。

 

 

 

もう、今は……泣くのも一人で。

 

寂しさと悲しさだけだけが、ここにある。

 

 

 

続く