*嵐妄想小説

*BL小説

*SFファンタジー

*お山妄想

*お話の全てはフィクションです。

 

 

 

 

 

(7)

 

 

 『大野智様

 

 信じられないかもしれませんが、俺はあなたの恋人です。

 2020年の夏に出会いました。

 そして一緒に、住むようになりました。

 1年くらい前です。

 今は、2021年の8月20日です。

 今のあなたは、どこで何をしてるの?

 あなたがいるのは、今、何年ですか?

 

 櫻井翔より』

 

 

その日から、手紙を書いてピアノを弾くのが日課になった。

 

智君の手紙は、いつも明け方に届く。

 

ポストの前で、待っていても、誰もいないし、来ない。

 

もちろん、どこからか、配達されることも無い。

 

でも、空っぽのポストに手紙は、突然現れる。

 

信じられないけど、俺は嬉しかった。

 

また、智君と、手紙で話せるなんて。

 

 

 

 

 

『櫻井翔様

 

 俺は、今、2018年の8月17日です。

 

展示会と知り合いの講演会を見に、9月1日から大阪に行きます。

 

 一週間後に、家に帰ります。

 

あなたの話は、まだ、信じられないけど。

 

できたら何か、教えてください。

 

2018年に、これから起きることを。

 

 大野智』

 

 

 

 

 

「2018年か……。本当に過去の智君なんだ」

 

2018年。

 

俺は、何か分かりやすい出来事を、探して調べた。

 

 

 

 

「え……?」

 

この年の台風って。

 

9月4日、台風21号が近畿地方を襲った。

 

確か、大変な被害が出たはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

『大野智様

 

2018年は、台風があります。

9月4日に、台風21号が徳島県に上陸して、1961年の第二室戸台風と似た経路をたどります。

近畿は猛烈な風で、大阪も大変な被害がありました。

どうか、気を付けて下さい。

 

櫻井翔』

 

 

 

 

 

 

「実際には……どうだったんだろう?」

 

心配で、過去のニュースを漁って読んだ。

ケガや亡くなった方の氏名は分からない。

大変な被害ではあったけれど、画家さんや展示会のニュースは見つからない。

 

 

現在からすれば、もう終わってしまったこと。

今、どうやっても、過去の時間にいる人を救う方法がない。

 

(いつだって、想うだけなんだ。いつだって……)

 

 

 

 

自分の無力さや、運命が嫌になる。

 

窓の外は、ただ静かで。

 

ここは、彼のいる世界とは違うんだ。

 

自分に出来るのは、ひとつだけ。

 

 

 

過去にいる彼の無事を……ただ、祈った。

 

 

 

続く