*嵐妄想小説
*BL小説
*SFファンタジー
*お山妄想
*お話の全てはフィクションです。
(ちょこちょこ加筆修正しています)
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……それは奇跡の恋。
深い夜の帷(とばり)が、下りる。
目を瞑って想うのは、ただ彼のこと。
どこからか……流れてくる音楽のように、
溢れてくるこの気持ち。
この悲しい気持ちも、音楽のよう。
もう会えない人を、ただ想う。
せめて、夢でも会いたいのに。
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(1)
窓の外は、長い雨が続いている。
あの人がいたら、どんなだったかな。
「翔ちゃん、雨ばっかだなあ……」
のんびり言って笑顔で、振り返ってくれるかな。
「うん、智くん、そうだね」
って、返事したいのに。
彼は……遠い海で死んでしまった。
あの日から、どの季節になっても、色が無い。
大野智という人に会ったのは、俺の勤める会社の主催する講演会。
そこに呼ばれたゲストの一人だった。動く所作が綺麗で、静かな男性だった。
5人呼ばれた画家の一人で、ゲストのトップとしてやって来た。
「初めまして」
そう挨拶すると、彼が笑って言った。
「初めてじゃないよ、君のこと知ってるから」
「え? それは……失礼しました。あの……どこで……?」
「時間ある?」
「はあ……あの?」
「一緒に来てよ、そしたら話すから」
屈託ない笑顔で言われて、彼の仕事場まで資料を持って、ついて行く事になった。
(2)
海のそばの一軒家。画家さんらしい、アトリエが一階にあって、二階が住居。
大きな窓からは、海が見える。
こんなに海からの潮風で、絵とか傷まないのかな?
考えてると、二階から声がした。
「なんで難しい顔してんの? こっちおいでよ、疲れたでしょ?」
「はい、いや、すみません」
はい、とウイスキーの水割りを渡される。
「あの……お酒は……」
「飲めないの?」
「飲めますけど……仕事中ですから」
「もう、終わったじゃん。ほら飲んで?」
「はあ……」
あんまり……断ってもなあ、と頂いた。
この後は、直帰してと良いよと言われてたから。
「君は、絵は?」
「描けないし……詳しくもないです」
「そう、君の名前は……」
「櫻井翔です」
その時、すごく嬉しそうに彼が笑った。
「俺のは……知ってるか。翔ちゃんでいい? 俺のことは智で良いよ」
「呼び捨ては……智さんで良いですか?」
「うーん、じゃあ智くんって呼んで?」
「良いんですか?」
誰にでも、フレンドリーな人なんだなあ。
最初は、講演会の参加も断ってたみたいだから、難しい人かと思ってたけど。
お酒もいい感じに、回ってきて話も意外と弾んだ頃、思い出した。
「あ……俺と……どこで会ったんですか? 覚えて無くって……すみません」
「ああ、正確に言うと、会ったんじゃないんだ。俺が一方的に見てただけ。翔ちゃんは、会社の営業の人といたよ」
「……? ……そうですか」
「最初は、講演会は断ってたんだけど、営業で来た人が翔ちゃんといた奴だって、気が付いたから受けたんだ」
「なんで……? 受けたんですか?」
「翔ちゃんを気に入ったから」
「……どこら辺を? あの……意味が……」
「翔ちゃんて、恋人いる?」
「いませんが……?」
「翔ちゃんて面白いな。俺、口説いてるんだけど? わかんない?」
「……はあっ?!」
微笑んだ彼が、口付けてきて。
「俺の事は……ゆっくり好きになって? 待ってるから」
そう言ってベッドへ、押し倒された。
「先に、体だけもらうね?」
彼は笑って、りんごを1つ盗むように、そのまま……俺を抱いた。
(3)
突然、始まった恋だった。
でも大野さんは、いつも自然で俺を大事なパートナーだと、周りにも紹介してしてくれた。
戸惑ってるのは、俺だけで。
芸術家の恋人が、俺でも誰も驚かない。
その事に、普通の会社員の俺が、1番驚いていた。
大野さんの家で、一緒に暮らし始めた。
少しづつ、絆が深まっていくようだった。
昔、ピアノを習ってた話をしたら、大野さんが言った。
「ねえ、翔ちゃんのピアノ聴いてみたいな」
「下手だから、恥ずかしいよ」
「うまいピアノが聴きたいんじゃないから」
「ええ? ……何それっ」
翌日には、彼はピアノを注文して。
夜は、寝る前にピアノを弾いてあげるのが、日課になった。
弾ける曲の中では、ショパンのノクターンが、好きだと言ってた。
よく、映画やドラマで、聞くからって。
「翔ちゃんのピアノって、いいよね。うま過ぎなくて」
「あの……褒められてる? 貶してるの?」
「褒めてる。だって俺だけでしょう? このピアニストを独占できるのは」
そう言って、ピアノを弾いた後は、激しく求められて、愛された。
特別に幸せな時間だった。
今思えば、「智」って呼んであげれば良かった。
まだ、ここから長く一緒にいるつもりだったから。
いつまでも、呼び捨てには出来なかった。
それは、大きな後悔になってる。
他人のままだったと、自分を責める一つになってしまった。
……最後まで。