(BL/お山/妄想小説)

 

 

 

 

今日は、エイプリルフールでも無いし。

 

何かのイベントの舞台の何かでも無い。

 

こんなことを言う貴方は、どういうつもりなのか。

 

あの日は、本当にそんな風に思っていた。

 

 

 

 

「また、頭だけで考えてんのか?」

 

いつも、俺が大好きな笑顔で貴方が言う。

 

「翔ちゃんて、嘘ツキなんだから……仕方ないなあ」

 

あの時も、彼はそう言ってたっけ。

 

ごめんね、俺って嘘つきだから。

 

 

 

 

「4月の嘘。Pink Moon」

 

 

 

全く、この世は何があるか分からないとは、この一年思っていたけど、これは想像を超えていた。

 

世界中が新しい感染症で、大変だったこの一年で、どうにか元の世界に戻るために誰もが働いていた。

 

――そう、元の世界に戻る為に。

 

だけど、もうすぐこの星は終わるという。

それは突然、世界中に動画配信で、流れてきたニュースだった。

 

テレビも国の偉い人も、この流れた動画ニュースを、嘘だと言うけど……その言葉を信用してる人は、ほぼ居ない。

 

なぜなら、動画の言う通りのことが、毎日起こって来たからだった。

 

突然、太平洋の真ん中が陥没して、大きな地震が起こり。

大津波が起こった後は、幾つかの国は、連絡が取れなくなった。

 

太陽は、もう一週間沈んでいない。

4月なのに、日本は毎日、気温が40度ある。

 

違う国は、氷河期のようになって、今はもうどうなったか誰にも分からない。

 

他の国はどうなったか、もうテレビも教えてくれない。

ネットも使えないし、知る方法もなくなり、各地域の人々が助け合って生きている。

 

あの動画の言う通りなら、太陽が突然沈み、その翌日に世界は終わるそうだ。

 

今まで、必死にやって来たことは、全部消えてしまった。

 

俺はもうずっと働きずめで、休みらしい日もないままに、この世が終わる事になってしまった。

 

でも、日本という国の人々は、最後まで美しくあろうとしていて、何とか近所にいる人たちで助け合って、今日になった。

 

暑くて疲れた俺が日陰で座り込んでいると、突然、知った顔が見えた。

 

「翔ちゃん、良かった! 会えたね!」

 

「智君……?」

 

2度と会えないはずの彼が立っていた。

 

 

*********

 

 

 

すぐこの間まで、俺と大野智という彼は同じ仕事をしていた。

必死にやってる俺の隣で、サボってばっかりなのが彼だった。

 

「ねえ、何でそんなにやる気ないの?」

 

「翔ちゃんこそ、そんなに働いて何がしたいの?」

 

「はあ?」

 

全く俺たちは、気が合わなかった。

でも、ある日気が付いた。

 

上司も、後輩も、彼のことを嫌う人がいないことに。

 

不思議だった。

でも、彼はいつも優しかった。

誰にも言い訳しないし、部下の責任は、いざと言うとき必ず取る人だった。

 

上司の絶体絶命のピンチを救ったこともあった。

 

『いざ』という日まで、彼は動かない。

 

俺はそんな彼が、不思議で仕方なくて、見つめているうちに……恋をしたようだった。

その気持ちは、誰にも言えないし、一生黙っておくつもりだった。

 

別に付き合いたいとか思っていなかった。

一緒にいられたら、幸せだった。

 

それなのに、智君本人が言い出した。

二人きりの会社で、残業してる時だった。

 

「翔ちゃん、俺と付き合って?」

 

「……え? 何を?」

 

「また、頭だけで返事する。そうじゃないよ、俺は翔ちゃんが……好きって言ってんの!」

 

「俺は……無理だよ。……智君……」

 

混乱したし、本当に無理だと思った。

智君なら、もっと素敵な人が似合うから、自分じゃダメだと思ったんだ。

 

「何で? 翔ちゃんも俺が好きだろ?」

 

「な……何言ってんの! もう、仕事しなよ、忙しいんだから!」

 

「翔ちゃんて、嘘ツキなんだから……仕方ないなあ」

 

そう言うと、笑って俺の顔に、自分の顔を近づけて言う。

 

「俺が好きって、言ってみて?」

 

「な……」

 

ジッと綺麗な瞳で見つめて来ると、俺の額に口付けた。

 

「翔ちゃんがちゃんと、好きって言えたら、今度はキスしてあげるね」

 

そう言うと優しい顔で、笑ったのだった。

 

 

 

 

翌日、大地震が起こり、世界が止まり、それきり……彼とは連絡が取れなくなった。

 

 

 

 

……あの日、好きって言えたら変わっていたんだろうか。

後悔するのも、辛くて、考えないように毎日過ごしてきた。

考えたら、何もできなくなりそうだったから。

 

ただただ、残った命で誰かの為になるようにだけ、生きることにした。

 

 

 

 

**********

 

 

 

太陽の下、彼は輝くような笑顔で立っていた。

 

「翔ちゃん、会いたかった、探したよ」

 

「智君……本当? 本物?」

 

夢みたいで、現実とは思えなかった。

幽霊でも会いたいと、毎日思っていたのに。

 

彼は、座り込んだ俺の手を取って立たせると、抱きしめた。

 

「もう会えなかったら、死ぬに死ねないから! 必死で探したんだからね!」

 

「智君……ごめん。俺も会いたかった。嘘ついてごめん……」

 

「俺……嘘でもいいから、俺のこと好きじゃなくていいから、恋人になってって、言いに来たんだ」

 

「なにそれ……? 何で嘘でもいいんだよ」

 

「翔ちゃん、嘘が下手なんだもん。でも絶対に、好きって言ってくれなさそうだったから」

 

二人で顔を見合わせて、思わず笑った。

もう久しぶりに笑ったから、涙が溢れた。

 

 

**

 

 

太陽がゆっくり沈み始めていた。

二人で、海の見える家を見つけて、その家の窓から見ていた。

誰もいない家は、不思議と一度来た気のする空気があった。

 

 

「翔ちゃんと、今日のピンクムーンを見ようと思って。きっといい記念になるから」

 

智君は、来年も、再来年もあるように笑って言う。

 

「4月のピンクムーンかあ。いいね」

 

ピンクムーンは、恋や愛を叶えるという。

 

明日、世界は終わるかもしれない。

でも、明日にならなきゃ、それは分からない。

 

わかるのは。

 

二人で一緒にいるってことだけで、……それは幸せだってことだ。

 

……沈む太陽の反対に、月が見え始めていた。

 

 

 

<end>

 

 

 

 

 

 

2021年4月27日は、満月のピンクムーンだそうです。(書いて他所へ投稿した日でした)

 

月がピンクなのでは無く、4月に咲く花々が、ピンク色だからだそうです。

 

こんな世界ですが、こんな時だからこそ、大切な人と大事な時間が過ごせますように。(コロナ禍)