(BL/お山OS/妄想小説)
屋根より高い鯉のぼりは、見なくなった。
こどもの日っぽいのは、柏餅くらい?
G.Wの休日が始まった彼は、そう考えながら一人でテレビを見ていた。
「いっつも、サプライズして貰ってるからなあ……」
一緒に住む彼は、G.Wも休みが無いようだった。
「ごめん翔ちゃん。自由に休んでてね?」
さっき一緒に朝食を食べると、そう言って、忙しそうに仕事場へ行ってしまった。
寂しいけれど、お仕事なら仕方ない。
「今日は、ご馳走でも用意して待ってよう」
誕生日とか、弾丸花見とか、いつも彼はサプライズをたくさんしてくれて。
自分も、してあげたいけれど何も浮かばない。
上手くできる自信もない。
「せめて、智君の役に立ちたいし……」
彼が好きな美味しいものを探しに、出かけることにした。
――――
大きな駅から近い百貨店に、ショッピングモール。
一人でウロウロ探したけれど、今ひとつ。
本屋へ行ってみて、料理本を立ち読みする。
でも、やっぱりピンとこない。
「これって、美味そう」
パラパラとめくった雑誌の写真。
写真のテーブルには、どこかの店のメニュー。
ワンプレートには、ポテトサラダとバケット。
明太子みたいな色のディップとクリームチーズ。
サラダの緑とズラッとローストビーフが並ぶ。
「おしゃれなワインとか? フルーツ入れた冷たい酎ハイとか?」
色々想像する。
美味しいねえって、彼の笑う顔が見たい。
最近は白米と味噌汁に、買ってきた出来合いのおかずが続いていた。
(彼氏が、出来合いのオカズで良いよ〜って言うから)
今日は休みで、そうお腹が空いていないせいか、その写真がとても良い感じに見える。
「似たものって……売ってるかなあ?」
コソッと写真を撮って、ちょっと高めの品が揃うスーパーへ。
綺麗な顔に長い足。
紳士的な動きの彼は、スーパーでも目立つ。
そんな自分には、もちろん気がつくことは無い。
「なんか違うなあ……」
「何をお探しですか?」
「へ? えっと……」
きちんとヘアセットして、一筋も乱れのない髪をした若い男性が立っていた。
エプロンみたいなものを着て、ニコニコして感じが良い。
このスーパーの人みたいだ。
「あの、こんなのがあると良いなって」
スマホの写真を見せると、彼はなるほどと言って、あちこち案内してくれた。
「同じではありませんけど、近いものなら。少しお値段は張りますが」
「コレくらいなら、大丈夫です」
すごく親切な彼は、レジまで付いて来てスーパーの出口まで見送ってくれたのだった。
「高級スーパーって凄いなあ。営業マンみたい」
高級スーパーが凄いのではなくて、彼だけが凄いのだとは思わなかった。
彼が、このスーパーの経営者のオーナー一族だとは、さらに気がつく事もなかったから。
――――――
「うわあ、おっしゃれえ。どうしたの?」
帰って来た恋人が、食卓のご馳走を見て嬉しそうな声を上げたから、いっぺんにテンションが上がる可愛い留守番の子である。
「すごい? 良かったあ。何かおしゃれでしょ? 一緒に食べてみたくて探したの」
「へえ」
テンション高く、スーパーで親切にして貰ったことを話したら、ちょっと彼が拗ねた風な顔になった。
「その人さ、翔ちゃんが可愛いから、優しかったんじゃない?」
「はは、そんなわけ無いじゃんっ」
冗談だと思って笑い飛ばすけど、相手は本気のようだ。
いきなり立ち上がって、翔の体を抱きしめた。
「俺、やきもち焼きみたいだけど、良いかな?」
「ホント? それって嬉しいかも」
思わず、ニコニコしてしまう。
「早く休めるように、明日は、もっと仕事頑張るね」
「ええ? 無理しなくていいよ?」
「無理するもん。翔ちゃん盗られたら困るし」
「盗られないよー。智くんより好きな人なんて……」
どちらともなくキスして微笑みあった。
「なんだかさ、だんだん好きになるよね」
「うん。わかる」
一緒に暮らしたら、少しずつ気持ちも薄まるかと思っていた。
でも、毎日好きが増えていく。
お互いこれって幸せだなあって思った。
きっと、もっと、もっと好きになる。
いつか……歳をとってお祖父さんになったら、最高に幸せだと思っているに違いがなかった。
昨日も今日も、二人は変わらず相思相愛。
変わらない愛情を、今日も確かめ合ったのだった。
第11話<end>