(BL/お山OS/妄想小説)

 

 

 

櫻井の出張も、あと残り三日。

 

連日、櫻井は走り回って忙しい。

 

 

「思ったより……くたびれたなあ」

 

ホテルの部屋のベッドで、櫻井が着替えないまま倒れ込んだ。

 

一日中、英語での会話と、英語の書類で、良いかげん頭が疲れてる。

 

「……でも、やりがいが有るなあ」

 

新しい企画に、そのためのプレゼン、その先の事の計算。

 

きっちり、計算しても、思ったようには、運ばない。

 

新しく付き合いが始まる会社巡りは、意外に好意的な人も多かった。

 

プライベートに連絡先を交換した人も、随分と増えた。

 

「なんか、仕事してるって気がする……」

 

大野に会ったら、話そうと思うことが、毎日増えていく。

 

「智君……何してるかなあ」

 

食事も外で皆と済ませたから、今日はもう寝るだけ。

 

彼もCMの撮影してるって言ってたっけ。

 

いつも、断ってるらしいマスコミ関係。

 

心境の変化の理由は、櫻井は知らない。

 

「もうすぐ……智君はお昼かなあ」

 

ここは、夜の9時前。

 

その時、スマホの電話が鳴った。

 

「……はい」

 

「翔ちゃん! 俺!」

 

「どうかしたの?」

 

すごい勢いで、話すから、普通の電話とは思えなかった。

 

何かあったかと、心配になる。

 

「えっと……そこって、〇〇通り、見える? その角のXXってビルの看板見られる?」

 

「え? 待って」

 

ホテルを出てすぐのビルだ。

 

電話しながら、慌ててホテルを出た。

 

 

 

ビルの大きな看板は、テレビのように、有名な動画サイトの企画が映っていた。

 

「智君の作ったCM?」

 

「そうっ、今から放送! そのまま観てて!」

 

たくさんの人が、その映像を観ていた。

 

音楽に合わせて、飲料水のCMが始まる。

 

大野の作った新しいロゴが、画面を覆い尽くす。

 

「すごーいっ!」

 

「まだまだ、こっからだよっ! 観てっ!」

 

 

 

次の曲が始まって、いろんな人種の恋人たちが、飲料水を手に愛を告白したり叫んだり、囁く場面が高速で流れる。

 

画面が眩しく光って、今度はゆっくりになって、大野が映った。

 

作業服のまま、満面の笑顔で、大野が叫ぶ。

 

 

 

「翔ちゃーんん! 愛してる〜っ!」

 

 

 

「ええっ?」

 

音楽の音量が上がり、メッセージが流れて、乾杯の場面になった。

 

『Yesterday and today , I love you.』(昨日も今日も、君が好き)

 

「えええっ!……」

 

驚く櫻井の耳に、スマホから大野の叫ぶ声がした。

 

 

 

「翔ちゃん! 誕生日おめでとう!」

 

 

 

まさに、今日は櫻井の誕生日だったから。

 

「智くん……だ、大丈夫なの?」

 

世界中に恋人の名前を叫んでる。

 

「うん! 大丈夫! これは今日一回きりのバージョンだから。でも、俺はずっとでもっ良いけどねっ」

 

あははと、陽気に笑ってる。

 

「ありがとう……」

 

櫻井は、呆然として、これしか出てこなかった。

 

……ああ、やっぱり……敵わないよ。

 

櫻井は、嬉しいのと誇らしいのと、いろいろで。

 

そんな櫻井に「またねっ♡」って大野が、元気に電話を切ったのだった。

 

 

 

********

 

 

きのうも、今日も、君が好き。

 

どんなことがあっても、離れ離れになっても。

 

考えるのは、いつも君のこと。

 

願うのは、いつも君のことばかりだ。

 

 

 

櫻井は帰ったら、今度は自分がもっとたくさん、愛を叫ばなければと……微笑んだ。

 

 

第6話<end>