(BL/お山OS/妄想小説)

 

 

side 翔

 

「お世話になったね、ありがとう」

 

大好きなお髭のくまさんは、翌朝帰って行った。

 

好きだとか、どうして来たの? とか何も言えなかった。

 

きっと1日だけのスペシャルな日……。

 

 

 

「くまさんだったら、ここにいても良い?」

 

 

智くんの言葉が、まだ残ってる。

 

ちょっと、期待しちゃったもん。

 

 

「……智くんのバカ」

 

 

気を持たせるような言葉だからさ。

 

期待しちゃったじゃん。

 

俺のこと、好きなのかな?

 

とか。

 

一緒に住むって意味?

 

とかさあ。

 

 

 

 

昼間の仕事中も、気になって困ってしまう。

 

なんとか仕事が終わって。

 

帰り道で、スマホが鳴った。

 

智くんからのメッセージだ。

 

『今日って何時に帰るかな?』

 

ん?

 

どう言う意味?

 

もう、帰ります。って送ったら。

 

『待ってるね』

 

え。

 

まさか……?

 

急いで、自分の家へ帰ったんだけど。

 

 

 

 

そんな筈はない。

 

でも。

 

一人暮らしのマンションの前に、くまの着ぐるみを着た智くんが立っていた。

 

「おかえり〜。待ってたんだあ」

 

お髭の顔は、大きなクマの頭のくり抜かれた部分から見えてる。

 

でも、全身はくまだ。

 

茶色い毛皮みたいな加工の「くま」を着た、お腹のちょっと出たくまさん。

 

こんな可愛いくまさんは、初めて見た気がする。

 

両手をブンブン振って。

 

ニコニコした智くん。

 

 

「くまさんになったよお。翔ちゃんと、一緒に住んでも良いかなあ?」

 

そう言って、大きなキャリーケースを見せてくれた。

 

「ええ?」

 

夢みたいだけど。

 

おかしいんだけど。

 

「うん」

 

そう言って頷いたら、智くんの顔が、涙で滲んだ。

 

「良かった。ありがと」

 

何が何だか分かんないけれど。

 

大好きなお髭のくまさんと、俺は一緒に住むことになったんだ。