(BL/潤翔/妄想小説)

 

 

 

side 潤

 

毎日、翔に話しかける。

 

微笑むことはあっても、声も聴けない。

同じ姿勢で、美しい姿は人形のようだった。

 

少しずつ、この静かな時間が思い出させてくれている。

俺の幼い日は、ほとんどが翔との思い出だった。

 

 

 

俺は知らなかったが、多分母親の死んだ後。

翔は、俺と母親そっくりなアンドロイドを会わせた。

 

「……お母さん?」

 

なんだか怖くて、翔の後ろに隠れた。

もう母さんは、長く不在だった。

病気が悪化していたんだと思う。

 

それでも、寂しいとは思わなかったんだ。

いつも翔がいて、優しかったから。

 

母だと信じていたアンドロイドは、嫌な話ばかりする。

それは、今にして思えば嘘ばかり。

でも、子供だったから、聞くしかなくて。

 

「翔には、内緒よ?」

 

そう言われていたから、辛かった。

翔にだけは、隠し事をしたくなかったから。

 

 

元気のない俺に、翔は優しかった。

2人で、あちこち遊びに行った。

 

翔が喜んでくれないかな? そういつも思ってた気がする。

翔は、いつも微笑んでくれるけど、楽しそうには見えなかったから。

 

綺麗な景色、綺麗な夕陽。

一緒に見ると、嬉しそうに笑ってくれた。

でも、どんな綺麗なものよりも、翔の方が綺麗だと思ってたよ。

 

皆が、翔を振り返る。

すっごく自慢だった。

 

『俺の翔は、綺麗でしょう? 俺のなんだからね!』って。

 

 

 

 

そこまで思い出したら、涙が溢れた。

どうして忘れていたんだろう。

 

あんなテロが……なければ。

こんな日は、来なかったはずだ。

 

翔と、ずっと幸せに暮らせたのに。

 

 

「夕方か……」

 

赤い夕陽が、庭から見える。

 

昔と同じように、美しい夕陽を一緒に見るはずだったのに。

 

しばらく、夕陽を泣きながら見つめてしまった。

 

 

 

+++

 

 

 

庭の扉を夜遅くなったから、閉めていく。

 

潤は、ため息を吐きながら、全部閉め終わって振り返って驚いた。

 

 

 

座って動かないはずの翔が立っていた。

 

 

 

「翔? どうした? 立てるの?」

 

潤が駆け寄ると、翔が静かに、微笑んで潤を抱きしめた。

 

 

 

「潤、愛してるよ」

 

「……?」

 

「潤、大好きだよ」

 

「え?」

 

「ずっとこうしたかった」

 

「…………?」

 

「潤……」

 

「待って!」

 

潤が無理矢理、翔の言葉を止めた。

 

「俺のこと分かるの? もしかして思い出した?」

 

「潤だよ、分かるよ。潤の翔だよ。もう……泣かないでいいからね」

 

笑って翔はそう言うと、潤を改めて抱きしめた。

 

驚きすぎて、潤は呆然とされるまま、いつまでも抱きしめられていた。

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

「良かったねえ、潤君」

 

「うん」

 

誰より、翔の回復を、ニノが喜んだ。

 

 

 

 

今では毎日、潤は翔と食事をする。

 

日曜日は、ニノと3人だ。

 

大きな庭で、今日はランチだった。

 

 

 

 

「いただきまーす」

 

ひとくち食べて、ニノと潤がむせて水を飲む。

 

 

 

「まっず――――! 何これ?」

 

 

 

見た目は綺麗なのに、翔の料理は、無茶苦茶、不味い。

 

食べられる料理の確率は、まだ50パーセントだ。

 

 

 

「腐ってもないし、高級食材だし、何がいけないのかな?」

 

翔は、味の良し悪しが分からない。

 

 

 

「なんで、こんなに不味くできるんだよ!」

 

「本当、才能じゃない?」

 

ニノも笑って、同意する。

 

 

 

「料理に、愛がなさ過ぎるだろお!」

 

潤が怒って言うが、翔は、大真面目に答える。

 

「いや、とても俺は愛してるよ? 潤も」

 

あんまり綺麗な顔で、ハッキリ言うから、潤が真っ赤になって黙ってしまう。

 

 

 

「……?!」

 

「潤君、良かったね」

 

ニノが、微笑む。

 

「潤、嬉しい?」

 

TAMAが、聞いた。

 

潤は良くない! と言おうとはしたけれど、翔が嬉しそうに笑うから……何も言えない。

 

テロの無くなった日曜日の庭は、天国のように幸せだ。

 

この世は地獄にも、天国にもすぐ変わることを知ったから、この日が奇跡のようだとわかる。

 

 

 

 

……アンドロイドだって、恋をする。

 

人の愛情に応えてくれる。

 

それは人が、アンドロイドに心を与えたからに違いなかった。

 

 

 

 

「恋するアンドロイド」<end>