(BL/潤翔/妄想小説)
爆発したビル。
逃げ惑う人々と悲鳴。
煙や、火事の匂い。
(あの日、あの時、母さんと俺は、どうしてたんだろう?)
潤が思い出そうとしていると、どこからか銃声がして近くの壁に当たった。
「なんだ? え? 銃?」
「潤君! 逃げてっ!」
「ニノ?」
見たことのある人間だった。
その人間が、ニノを殴って放り投げた。
「ニノに何すんだよ!」
掴みかかって、その顔を見て驚いた。
「元気だった? 会えて嬉しいよ」
それは、記憶の中で死んだはずの母親だった。
「母さん……?」
「潤、お前はまだ、私を母親だと思ってるの?」
気がつけば、バラバラと、近くをアンドロイドやその仲間らしい人間が囲んでいた。
「お前の父親を呼び出して欲しいんだよ。でないと、また人間がたくさん死ぬよ」
「何の話をしてるんだよ。母さんじゃないのか?」
そのアンドロイド達から離れたビルがまた、爆発した。
「人間はすぐなんでも忘れるけど、私たちは忘れられないからね」
さらに、遠くで爆発音が聴こえる。
潤は、母親と同じ顔の女を突き飛ばすと、倒れたニノに走り寄り抱き起こしたが、意識を失っている。
「ニノ……」
その時走って来た人影が、銃でアンドロイドを撃ちながら向かってきた。
「潤っ! 伏せるんだっ!」
その声は、翔だった。
「翔?」
「早く!」
キーンと言う高い音が聞こえ始めて、地面が震えた。
潤がニノを抱いて伏せた上から、翔が盾になるべく覆い被さった。
すごい量の高音が響き渡って、耳が聴こえなくなる。
白く周囲が光って広がっていった。
次に薄く青く周囲が光って見えて、真っ暗になった。
数秒にも、何分にも感じた時間だった。
シンとした空気で、潤が目を開けると、警官が大勢で周りを走り回っていた。
アンドロイドは全ておかしな格好で止まっている。
アンドロイドの仲間らしい人間は次から次へと逮捕されたり、抵抗した者は銃で撃たれていった。
「ニノ? 大丈夫?」
「うん……」
翔が、声もなく潤達の上からずるっと落ちて動かなくなった。
「え……? 翔?」
揺り起こすが動かない。
「翔っ!」
翔は、まるで死んだように、動かなかった。
翔の肩の破れた洋服からは、内臓が剥き出しに見えている。
触れた場所の皮膚が破れて、肉が裂け、骨が見えた。
「これは……」
ただ、質感が違うそれは、人間そっくりなアンドロイドの体だった。
「翔……。アンドロイドだったの?」
翔は動かないまま、驚いて動けない潤の目の前で、警察官たちによって連れ去られていく。
「そんな……」
それでは、母の愛人では無かったのか。
それなら、アンドロイドの翔は?
「翔……」
爆撃を受けたような街。
炎と煙とサイレンの音。
あちこちで、たくさんの人が動いている。
見覚えのある景色に、潤は翔の昔の姿を重ねていた。
さっきの光や音も、アンドロイドを停止させる音響兵器の爆弾だと……後で教えられた。
だから音響兵器の攻撃で、アンドロイドの翔は、動かなくなったのだ。