(BL/潤翔/妄想小説)

 

 

 

(1)

 

 

この体には、人に似た血も、肉もあるけれど。

 

この心が人と同じモノなのかは、自分でも分からない。

 

……分かるのは、ただ、大切に思ってる。

 

ただ、心から愛してる。

 

この気持ちは、何処から来て……何処に辿り着くんだろう。

 

 

 

 

 

『恋するAndroid』

 

 

 

 

 

 

side 潤

 

 

俺が子供の頃、どこの家もアンドロイドを買うのが流行してた。

流行りは二種類、人間そっくりな型と昔の映画に出てくるような小さめの丸い型。

だから俺の家にも丸くて可愛いロボットが1体いてお気に入りだった。

 

でもその数年後、「アンドロイドに権利を」みたいな運動とデモが勃発した。

それが1年続いた挙句に、テロになり、あちこち死者を出したせいで、人に近い型は製造が制限された。

その時の死者の一人は、俺の母親だった。

もともと親父は、愛人と住んでたから、母親のその時の愛人だった男が、俺の後見人になった。

母さんとは仲が良さそうだった。

 

後見人の名前は、櫻井翔という。

 

それから今年で10年になるが、俺はまだこの広い家にロボット1体と後見人と暮らしている。

 

「ジュン、おはよう。もう起きる時間だよ」

 

毎朝、ロボットのTAMAが起こしてくれる。

 

「……おはよ、タマ。あいつは?」

 

「もう、起きて朝ごはん用意されてますよ」

 

「……そう」

 

 

 

毎朝、あの男……翔はマメに色々朝食を用意するけど、俺は10年間一度も食べたことは無い。

 

ダイニングに行くと、フルーツやパンケーキ、コーヒーに紅茶、オレンジジュースがテーブルに並んでいる。

 

そこに立っている翔は、垢抜けて上品で、スマートな動作が似合う美形だった。

 

 

「おはよう潤。食べる?」

 

「いらない」

 

「そう」

 

俺の愛想のない返事にも、慣れたのか顔色も、声も変わらない。

 

時間をかけて作った料理を一口も食べなくても、翔は怒ったことが無い。

 

母親が死んでから何年経っても、俺たちの距離は縮まることが無かったからだ。

 

 

「タマ、今日は遅くなるから」

 

「はーい」

 

「いってらっしゃい」

 

「……行ってきます」

 

家を出て、ホッとする。

あの家で寛げたことは無い。

 

……今も記憶に残る。

忘れられない光景。

母親の倒れているそばに、血まみれで立っていたのは、翔だった。

 

 

 

***

 

 

 

潤が出て行った後、ゆっくりテーブルを見回して、翔は……ため息をつく。

黙って、食べてもらえない料理を片付ける。

ロボットのTAMAが、手伝ってくれる。

 

「ショウさん、ジュンはどうして、いつも食べないの?」

 

「さあ。たぶん、信用されてないということかな」

 

ロボットは、表情は無かったが、悲しそうな声で答える。

 

「ショウさんは、食べないのが分かってるのに、どうして作るの?」

 

「食べて欲しいからだよ、タマ」

 

背の高い体を猫背にして、食器を片付けながら、翔は微笑んだ。

 

 

 

**********

 

 

 

大学の授業が始まる前に、教室で潤が適当に買ったパンを食べていると、幼なじみの二宮和也が声をかけてくる。

 

「潤君、またそんな物食べてんの?」

 

「ニノか。だって腹減ってんだもん」

 

 

 

潤は、黒い皮の上着に白いTシャツと黒パンツ。

 

派手な彫りの深い顔立ちは、美しい。

 

対してニノは、ブラウンの長めの髪に、薄いブラウンの瞳。色が白いから、白っぽい上下の服で発光して見える。

 

 

「家で食べれば良いだろ? 作ってくれてんじゃないの?」

 

「あいつのメシは、食えねーよ」

 

「そんなに不味いの?」

 

「一口も食ったことないから、わかんない」

 

「……じゃあ、作ったその料理は、どうしてるの?」

 

「知らない」

 

「ひどいなあ……」

 

ニノは、眉を顰めながら、それでも潤の隣に座る。

彼は、2歳年下だ。

母親が死んだ時、母と一緒にいた潤は大怪我を負って、長く入院していたから同級生になった。

 

「あのさ、まだ疑ってんの? ……翔さんのこと」

 

「疑ってないよ。あいつが殺したって確信してるから」

 

「覚えてないんだろ?」

 

「最後は覚えてるよ。血まみれで母さんの前に立ってた」

 

「ロボットの誤射で死んだんだろ?」

 

「そんなの、あの騒動の中じゃ嘘でも分かんないよ」

 

「まあ……凄かったよね、この町は戦場みたいだった」

 

この町の騒ぎが一番酷かった。

 

死者も、負傷者も全国一だった。

 

潤の母親は、撃たれて即死。

 

そのそばで倒れてた潤も生死を彷徨った。

 

翔が潤を連れて逃げなければ、そのまま死んでただろうと言われた。

 

潤は、何ヶ月も意識不明だった。

 

目が覚めたら、いつも翔がいて。

 

「大丈夫、俺がいるよ」

 

必ずそう言った。

 

母親の死は、退院してから知った。

 

アンドロイドがいると恐くて立ちすくむ潤を、翔が必ず手を引いて連れて帰ってくれた。

 

 

ずっと、潤は考えていた。

 

 

 

 

 

『どうして、翔は俺を助けたんだろう。母さんの為?

 

それなら、母さんを殺してないんだろうか。

 

分からない。

 

もしそうならどうして俺は、翔が殺したと思うんだろう。

 

毎日、俺のために作られる食事。

 

それを眺めるだけの俺。

 

毎日、翔は何を考えているんだろう。

 

これからどうしたら良いんだろう』

 

 

 

 

独り言に、ニノが答えてくれる。

 

「それは簡単だよ。ただ一緒にご飯を食べて、二人で話すんだよ」

 

「……どうやって」

 

「言葉の通りだけど」

 

ニノは、いつも潤を助けるようにそばにいる。

 

分からないことを、わかるように、簡単に説明してくれるのだ。

 

 

 

 続く