(BL/櫻葉SA/妄想小説)

 

 

 

(4)

 

 

 森の出口には、魔女が立っていた。

 

「この森から出たいかい? 出たかったら、愛してるものの名前を教えなさい」

 

「雅紀だよ! 早く行かなきゃ、死んじゃう!」

 

「助けたかったら、この森を出て、探しなさい。この先は……」

 

魔女が森の出口を指差した。

 

指差す方へ、足を一歩踏み出すと。

 

 

森が一気に左右に開いて、光で眩しくて何も見えなくなった。

 

 

 

――――――

 

 

 

都会から、電車で1時間。

 

森のようになった並木道を進むと、白い病院がある。

 

受付で挨拶をして、三階の奥の部屋。

 

「お兄さん、今日も良い日だよ」

 

白い部屋の白いベッドに、お兄さん……櫻井翔という人は、眠っている。

 

事故の日から、もう7年経っていた。

 

 

あの日、トレーラーから僕を庇ったお兄さんは、目が覚めなくなった。

 

僕は軽症で、お兄さんは、奇跡的に命は助かった。

 

でも、目が覚めないまま、7年。

 

僕は、19歳になった。

 

 

 

事故の後も、ずっと目が覚めるのを待っていたけれど、事故から10日後に、お医者様が言った。

 

『もう、危ないかもしれない』

 

この世から、命が、お兄さんが消えてしまう。

 

泣きながら、森のような並木道を歩いて、気が付くと知らない場所だった。

 

 

薄暗い道に、魔女のような姿の人が立っていた。

 

「どうしたの?」

 

「……お兄さんが死んじゃうかもしれなくて……」

 

優しくて、寂しいお兄さん。

 

僕が助けたかったのに、お兄さんは僕を助けて、天国に行こうとしている。

 

 

「助けたい? なら、彼に愛されないと。人は愛する人のためにしか、生きられない。愛する人がいないと、すぐに神様の元へ行ってしまうから」

 

「どうしたら良いの?」

 

「チャンスをあげる。彼の時間を少し、巻き戻そう。その時間はお前の寿命からもらうよ?」

 

「命なら、あげる。でも……このままじゃ、愛してもらえない。どうしよう」

 

「目を瞑って、理想の姿を想像しなさい。彼が好きそうな姿を。そして、時間を超えて会いに行っておいで? 時間は少ないからね? そして約束を守って……」

 

「約束……」

 

「真実の愛を見せて。そうして……」

 

 

 

時を超えて、奇跡の魔法は、僕とお兄さんを会わせてくれた。

 

見ず知らずの僕を、家に入れてくれた。

 

僕が小学生だって、言ったら驚くかな。

 

とても、大人になった体は、まだ慣れなかった。

 

お兄さんは、お布団を別に敷いてくれるけど、寂しくてお兄さんの隣に潜り込む。

 

お兄さんに抱きしめてもらうと、温かくて、よく眠れた。

 

一緒に食べるトーストも、お兄さんが入れてくれるミルクコーヒーも美味しかった。

 

でも。

 

お兄さんは、優しいけど、僕をどう思ってるんだろう。

 

毎日、一緒に過ごすだけで、愛してもらえるんだろうか?

 

愛し方も、愛され方もわからない。

 

ただただ、優しい時間が、過ぎていった。

 

 

 

奇跡の時間は、短くて。

 

期限のあの事故の日が迫ってきた。

 

お兄さんは、優しいけど、まだ愛されてるとは思えない。

 

魔女が言った。

 

お兄さんが、僕を愛してくれたら、奇跡は起こると。

 

 

 

続く