(BL/櫻葉SA/妄想小説)
(1)
全てが眠る、茨の森。
愛しい人が、眠っているから。
……そっと森に行く。
君を眠りから起こす為に。
君に愛してもらうために。
勇気だけを胸に、森を走り出す。
――――――
「ねえ、お金ある?」
12月の寒い空。
それでも晴れた日の陽射しは、輝いていて。
その陽射しのような君に出会った。
「お金? どうしたの?」
自動販売機の前で、声をかけられた。
「うん、ココアが飲みたいんだけど、お金がないんだ」
屈託なく言う君は、初めて見る顔だった。
綺麗な瞳に、可愛い小さな顔で、一度見たら忘れられない綺麗な彼。
まだ学生に見える。
「ああ、ココアね、これで買いなよ」
寒い日だと言うのに、彼は薄いシャツに、ジーパン姿で寒そうだったから、ココアを買ってあげた。
「ありがとう」
ニコッと笑った顔は、可愛くて幼かった。
「君、この辺の人? 薄着だけど、大丈夫?」
一緒にココアを買って、二人ベンチに座って飲んだ。
……後で、考えたら変だけど。
当たり前のように、彼が、一緒に飲もうって言うから。
「うん……行くとこ来なくて」
「……? えっ? どう言うこと?」
「家がない。何にもないんだ」
「え……ええっ?」
雅紀という彼に、初めて会った日だった。
――――――
その日は、寒いし、良い子そうだし、事情も分かんないけど……身なりも綺麗だったから。
家出して来たのかもしれないと思って、俺の家に泊めてあげることにした。
「狭いけど、外よりは良いでしょ?」
一人で住む1DK。
大学生の頃から住んでいて、南向きの部屋はお気に入りだった。
「良いの?」
「うん、しばらく困ってるなら、居ていいよ」
他人をこんな風に、家に入れるなんて初めてだった。
「ありがとう、あったかい」
嬉しそうに、こたつに入って笑った。
可愛い笑顔に癒されて、間違ってないよねって自分に呟いた。
そして、二人の生活が始まった。
――――
「おはよう、お兄さん」
ベッドの隣に布団を敷いてあげても、いつの間にか俺のベッドに入って寝てるから、一緒に寝るのが当たり前になった。
長いこと、一人で寝てたから、忘れてた。
誰かと一緒に眠るのは、こんなに、あったかいんだって。
雅紀の体温は、高いみたい。
一瞬で温まって、幸せになる。
気持ち良くって、温かい布団からは、なかなか起きられなかった。
「おはよう……早いね」
「お腹空いたから、トースト焼いたよ。食べよう?」
「うん」
いつも雅紀が、トーストを焼いて、俺がコーヒーを淹れる。
雅紀は、それ以外の料理は、できないから。
俺はブラックで、雅紀はミルクコーヒーだ。
「雅紀……本当にここに居て大丈夫? 家の人は心配してない?」
「ふふ……大丈夫。お兄さんこそ……俺が居ていいの?」
「俺は、全然いいよ」
雅紀だったら、ずっと一緒で良いんだけど。
本当のことを聞く時は……きっと別れる時だから。
それ以上は、聞けないまま、時間が過ぎていく。
「今日は、休みでしょ? どっか行く?」
「そうだな、雅紀は、行きたいとことかある?」
雅紀が、笑って言う。
「お兄さんが行きたいとこで良いよ」
彼の答えは、いつも同じだった。
続く