いつだったか、俺の財布から
あるものが落ちた
すぐ後ろを歩いていた兄さんに拾われて
お礼を言う前に奪い取ったんだ
呆気に取られていた兄さんの顔が
頭から離れない・・・
っていうより、その中身を見られたのかも
と、思うたびに
心臓が爆発しそうになる
『智くん』呼びを人前でしなくなってから
随分と経つけれど、それでも
打ち合わせ後の飲みの時なんかは
気にせず呼んでいた
それも、いつしかなくなって
俺が一方的にしなくなっただけなんだけど
どうしてそう呼ばなくなったとか、なんでそう呼んでいたか
今だって、兄さん呼びしてるけど
何をどう呼んだって
全く気にしないで振り向くんだ
それが無性に腹立たしくて
つい、そっけなくしてしまった
みんなでワイワイしているのが無意味に感じていた時期だった
やることなすことイライラして気持ちの持っていく場所が無かった
そんな俺に兄さんは普段と変わらず接してくれてた
なのに、それさえもイラっとして距離を置くようになったんだ
兄さんへの思いが膨らみすぎて
自分自身なんだかわからなくなっていた
そんな時だった
手紙をもらったのは
今思えばその時の兄さんは
明らかに緊張していたと思う
だけどその頃の俺は自分の事しか考えていなかった
散々俺の事をスルーしておいて
今更なんだよ・・・・・そんなことが先に来て
想いと裏腹な言葉が出ていた
『ゴメン、』
それだけで兄さんに伝わってしまった間違った思い
今でもずっと引っかかっている
クソみたいな意地だけが独り歩きして
取り返しのつかないことをしたんだって
気づいたころ、時すでに遅しって・・・
どの面下げて、釈明したらいいのかさえ
分からなくなっていた
心はあの時のまま身体だけがデカくなっていった
青臭い俺の思い出・・・
あの時もらった切れ端が無くならないように
少し大きめの紙に奇麗に貼り付けて
ずっと持ち歩いた
何度も読み返して
すでにボロボロになっていたから
俺にしかわからない手紙の内容
そのうち消えてしまうであろう
兄さんが俺にあてて書いた文字・・・
捨てられるはずがなかった
何も聞かない兄さんがこの手紙の事を
憶えていて、もし、万が一にでも
俺に聞いてきたときは
今度こそ、本当の気持ちを伝えられるように
そう思って肌身離さず持ち歩いていたんだ
ねぇ、もう一度俺に機会を与えてよ
弱くて自己中な俺に
チャンスをくれよ
兄さん、もう一度
俺に‥‥書いてよ
恋文・・・・

