ジャスミンって花の名前
漢字で茉莉花...
この花のおかげで
今の僕がいる
昨日小包が届いた
懐かしい名前が目の前にある
クセのある力強い字
君が送ってくれた
品目には
「マツリカ」
相変わらずだ
誰もわかんないって、(笑)
しばらく会えていなかったから
気にかけてくれたことが嬉しかった
包を開けて
ふくろから
ひとつ取り出し、説明書通りに
お湯を沸かし、まん丸のそれを入れた
少ししてフワリと香る懐かしい匂い
一瞬であの時に記憶が戻っていく
コップをのぞけばユラユラと花開く
見た目は少しグロイかも
でも香りと味はとても旨い
マツリカ...
あの時君は
どんな思いでいたのだろう
みんなの人気者の君に
初めて名前を呼ばれた僕
何事かと周りが一斉に注目する
そんなことお構いなしに
トコトコ近寄ってきて
『今度の休み時間ある?』
なんていきなり言うもんだから
曖昧な答え方しか
思いつかなかった
だって君が僕を誘うなんてことは
あり得ないと思っていたから
地味で目立たないし
君とは全く対極にいると
思っていたから
そんなだから
真っ直ぐに見つめられると
どうしたってそらしたくなる
ちらっと見ては目が合う
そらす、見る、そらす。
そんなことを繰り返していたら
君がクスクスと笑った
『返事待ってる』
その時初めてじっくり
君の顔を見たのかもしれない
全身に電気が走るような
不思議な感覚を今でも覚えている
多分
君の顔が好きなんだと
自覚した瞬間だった
何度か返事の催促があったけど
無理矢理感がないところもスマートで
非の打ち所がないとは
こう言う人を言うのだろう
爽やかなんだ全てが
結局
僕は返事をすることなく
聞いていた待ち合わせ場所に
ただ向かっていた
いるはずがないことだけを
確かめたくて
だけど
君は当然のようにそこにいた
少しだけ不安そうな顔をして
あまり見たことのない顔の君を
見ていたら
僕の心がチクリとした
返事もしないで
ここにいる僕を君はどう思っただろう
随分と失礼なことをしているわけで
それでも嬉しそうに僕に世話を焼く
君を見ていると
自然に笑っている僕がいた
君が僕に何を言いたいのか
僕は君に何を聞きたいのか
なんとなくぼやっとした気持ちのまま
2人の時間が過ぎていく
おもむろに何かを取り出した君
見たこともないそれを僕に見せると
どう言うわけか
僕に似ていると言う
意味のわからない僕を尻目に
君の力説は続く
僕から同じ香りがすると言う
そしてその香りが1番好きなんだと言う
君が見て、と
目の前に出してくる
硬そうなまん丸の実
カップにお湯を入れ
ポンとその中に落とすと
周りの皮がゆっくりめくれて
あっという間に花が咲いた
そして漂う優しい香り
『飲んでみて』
君が僕にカップを渡す
鼻の奥にまで届く良い香り
初めて見た不思議な実は
ずっと忘れられない味と香りになった
「・・・おいしい」
そう言った僕を
君はまた違う顔で見つめる
今度は視線を逸らすことができなかった
あぁ、僕と君は
きっと同じことを考えている
確信はなかったけれど
お互いに口にすることなく
ただ、カップの中で花開く
それを見ていた
そして今も続く
大切な時間
マツリカ
茉莉花
ジャスミン
君と僕の青くさい
春の思い出
