長年慣れ親しんだペンが壊れた

毎日日記をつけるときに使っていたペン

特に思い入れはなかったが

気付けばいつもそのペンを手に取っていた

 

 

新しいものを買わないと・・・

 

重い腰を上げて

梅雨に入ったばかりの街中に出向く

 

地下鉄の階段を上がるとすぐの交差点脇

いつもと変わらぬ暖簾が出迎えてくれる

馴染の店員に軽く会釈をして二階に上がると

奇麗な色とりどりの万年筆が

店の一角を陣取っていた

一通り見て回ると

陳列台の一番端っこにある

キャップも軸も透明な万年筆が目に留まった

 

インクが透けて見えるからなのか

そのグラデーションに興味が湧いた

色の名前にも工夫がされている

和名のインク?

 

へぇ~、色んな言葉で表されてる

 

 

 

買う予定などなかったのに

その中の一つを手に取って

レジに向かう

 

 

「一万円と消費税になります」

 

 

・・・・一万円?

 

値段を見なかった俺が悪い

ひとつ大きく息を吐き

財布から万札を取りだす

 

給料前で痛い出費にはなったが

別のものを探す気にはならなかった

 

一目ぼれした俺の

・・・・・万年筆

 

 

高級なイメージのある万年筆

もっとも、相場がわからないから

この一万円も

安いのか高いのか・・・

 

重厚感のそれとは違い

手にした万年筆には装飾も色もなかった

シンプルにインクの色だけがすべてを飾る

 

 

 

なんだろうな

まるで俺に何かを訴えているようにも感じる
 
 
 ......。シンプルにか、



気づけば早足で
来た道を真っすぐに戻る
手にした万年筆で書きたいものがある
 
 今更と言われてもいい
見慣れた名前の隣に
急に書いてみたくなった
試し書きでも、下書きでもいい
言い訳なんて後から考えればいいんだ
 
 
引き出しにしまいっぱなしの紙切れ
いつか渡せると信じて
一文字一文字心を込めて書こう

新しい旅立ちに恥じないように