スズラン⑦






・・・・・・揺れ動く身体が

翔くんの波に飲まれていく・・・




寄せては返す波の激しさに

意識がもうろうとしてくる中

また、翔くんが呟く


「俺を・・・俺だけをっかんじて!!」


・・・・・翔くん?

どうして・・・今、俺は翔くんに・・・・

翔くんで一杯なのに



翔くんに求められることが今はただ

うれしい・・・・

たとえ、この瞬間だけだったとしても


一つになれた喜びは代えがたいもの



翔くん・・・・

翔くん・・・・


一杯感じてるんだよ


翔くんのすべてに



「智くん、・・・智く・・ん・・・・」



不安気な声に


翔くんの中で見え隠れしている何かが

蠢きだすような気がして


・・・・怖い




いったい・・・なんのことを言っているのだろう



「しょう・・・んっ、あぁっ・・・俺はっ、」



こんなに翔くんで満たされているのに

翔くんは違うの?

身体は翔くんをただひたすらに

求めていた・・・








智くんを突き動かすたび

身体中に走る痺れが俺の思考を麻痺させていく

いま、智くんの中にいるのは俺

二人だけの世界がここにあるというのに

俺は・・・・智くんに

秘密を持ったまま

それを伝えることもなく

また伝えるつもりもないのに

智くんの中の見えないそいつに

見せつけるかのように

抱いていた・・・

俺だけを感じていて欲しいのに

智くん・・・














「智くん・・・くっ、っはぁ、・・・」


・・・・毎夜

何度こうして智くんを抱いたのだろう

決して触れられない身体を夢見て

幾度熱を吐き出したのだろう



頭で智くんを穢しながら

智くんの身体をその手にしたそいつが

許せなくなっていった


そいつは・・・


俺に智くんの抱き方まで

口にしたんだ!!!





偶然会った飲み屋で

酒に酔ったそいつが

口にした下賤な話は

いつしか智くんの話に変わっていき

聞きたくもない二人の時間を

耳にすることとなる・・・

グラスを握りしめ

何事もなかったかのように聞き流し

頃合いを見て席を立つはずだった



だが、そいつの発した一言が

俺を正気にさせてはくれなかった


酔ったそいつを送るといいながら

連れ込んだモーテルで


気が付けば俺はそいつを押し倒し

智くんが受けたであろう痛みと

同じ痛みを与えていた


そいつが口にした

智くんにしてきた通りの同じ抱き方で

そいつを・・・・


めちゃくちゃにしてやった


それでも、智くんの傍からいなくなる事はなく

窮屈な心は解放されることはなかった



そいつも・・・・智くんが

好きだったことがわかったから

自分を見ていない相手を抱く気持ちがわかるかと

事が済んだ後

ぼそりといっていた



だが、それでも

智くんを手に入れられたことに

変りはない

故に・・・俺は何の後悔もなく

二度とその口で智くんを穢すなと

まるで俺自身に言っているかのような

きれいごとを投げ捨てた



壊れた頭は

時に思いもしない行動をとるものだと

さすがの俺も・・・・


笑うしかなかった



悔しさと

己の不甲斐なさとで

ぐちゃぐちゃになった想いを

抱えながら

智くんの顔を見つめる毎日が


もう・・・

どうにもならないところまで来ていたんだ





穢れた心と身体は俺の方なんだよ


智くん・・・・




早く毒が回ってしまえばいいのに