夏の思いでは?


毎年、そう聞かれて答えてきた翔くん・・・・


俺と偶然会ったお祭りの話・・・



それなのに、俺ってばどうでもいいことを話しちゃって


翔くんが話だした途端思わず声を上げていた




「あっっっ!!」



それを聞いた翔くん・・・・ものすごい顔して



「あっっ~じゃねぇっっ!!」


って、真顔でそう言ったんだ



罰悪くなった俺・・・・半笑いで俯くしかなかった・・・・



「そうだ、そうだった・・・」



漏れる独り言・・・・・











あれから十年近くたって


俺は地方の花火大会に来ている


番組のロケの途中にスタッフが気を使って用意してくれた

特等席・・・・・




って言っても、土手に茣蓙を引いて作った

即席の観覧席・・・・



あまりの質素感に楽しくなってくる



あの時・・・偶然、本当に偶然翔くんを見つけた時



心が躍ったんだ・・・


鼓動が身体中を駆け巡るように


胸が高鳴った・・・・・



「翔くん!!!!」



傍にいたマネージャーを差し置いて

一目散に駆けだしていた



そんな俺に気づいて両腕を


大きく広げて


抱きとめてくれた翔くんも


同じ気持ちだったのかな?





今となっては確かめるすべもないけれど(苦笑)




不思議なもので・・・・


年を重ねるたびに色鮮やかに蘇ってくる


その光景は・・・・俺の心をキュンとさせるんだ


いいおじさんが・・・何言ってるんだろうな





今年も、やっぱり聞かれた夏の想いで・・・・


俺ね、決めてたの、そのことを話そうって


順番が来るまでソワソワしながら


ずっと、待ってたの




あの時、翔くん怒らせちゃったから


その時の思い出をずっと大切にしてきてくれたから


今度は俺がそのことを伝えたかったんだ


翔くんに・・・・・




俺にとっても、あの日のお祭りは


特別な意味があったんだよって・・・・



偶然というなの・・・・運命を信じた日だから



時間がなくて・・・・うまく言えなかったけれど


翔くんにわかってもらえたら


それでいいの、俺












そんなことを、思い出しながら

スタッフの配るビールを飲み始める


ここに翔くんがいたらな・・・・



酒も手伝ってか、妙に感情的になってきて

汗なのか涙なのかわからないもので


顔中が濡れていた








空高く打ちあがっていく花火


空を切り光の音を出し続ける花火





散り行く光の残骸があまりにも綺麗で


ずっと空を仰いでいた・・・・



翔くんを感じ乍ら





溢れ来るものを


見られたくなくて


そっと、その場を離れた




人ごみをさけ土手の反対側を歩き始めたとき



大きな三尺玉の音が響く



思わず見上げて呟いた





「た~まや」



『た~まや』



???



???




えっ??




えっ??





大きな枝垂れ花火となって

夜空に花を咲かせたその影に浮かび上がったのは




紛れもない 翔くんで・・・・・



動きを止めた俺等は


身じろぎもせず

ただ、見つめ合っていた




そして・・・


どちらともなく歩み寄り




きつく抱き合う




こみ上げる得体の知れない想いが

身体を揺らす・・・



なぜだか笑いが止まらない


それは、翔くんも同じで


何度も抱き合い、何度も、見つめ合い


おなかがよじれるほど笑った・・・・・




「・・・・・ なんでここにいるの?」




「俺?、番組のロケ先がここなの、お忍びの旅(笑)」




「ぅえっ、そうだったの?俺知らなかったよ、」




「俺だって、近くにロケ行ってるって聞いていたけど、

さすがにもう帰ってると思ってたから」




「・・・・・・・・・・・。」



「・・・・・・・・・・・。」




ふふふっ、ふっはははは




こんな偶然・・・・あるもんか



やっぱり、俺確信した


翔くんとは運命なんだって!











最後の大きな花火を二人肩を並べて

見上げる・・・・・







また・・・・ひと夏の軌跡が生まれた瞬間



だけど・・・誰にも言わない


俺と翔くんが知っていればいいことだから






重なる唇が・・・・・


そう言っていた・・・・・



二人だけの秘密だよって・・・・・