どうやって帰ってきたかもわからないくらい
気づけば真っ暗な闇の中
膝を抱えてソファーにうずくまっていた
目を閉じれば浮かぶ
微笑み俺を見つめる智くんの眼差し
俺の心を射抜く

どうしたって消えやしない
だけど智くんは・・・俺を忘れるくらいに・・・
このジレンマが俺の思考を確実に
壊してゆく・・・・
ゆっくり・・・そして確実に
歯止めが利かなくなれば
俺は無理やりにでも智くんに触れてしまうだろう

それこそ二度と戻れないような関係になってしまう
きっと・・・智くんは俺を許さないだろう
智くんの中の誰かは俺なんだと・・・
言ってしまえば楽になるのだろうか
そもそも、本当に智くんは忘れているのだろうか?
俺を諦めさせるためにわざと忘れたふりをしているのか?
だとしたら・・・俺は・・・とんだピエロだ
智くん・・・俺はもう疲れたよ
どうしたって手の届かないあなたに
戻ってしまったのなら
振り向かせるための気力は俺にはもう残っていない
全力で・・・全身全霊であなたを愛したんだ
そのあなたに拒絶されたのなら
もう何もない・・・
何も生まれてこないんだ
感情も怒りも涙さえ枯れ果てるだろう
気づけば俺は・・・
仮面をつけた薄気味悪い人間になり下がっているだろう
二度と人を好きになんかならない
智くん・・・あなた以上に好きになる人間なんて
いやしないんだから・・・
智くん・・・
智くん・・・
智くん・・・
「智くん・・・好きだよ、大好きだったよ
だから、戻って・・・きて・・・・最後でもいい・・・
お願いだよ・・・・もう一度抱きしめて・・・」
止めどなく流れ出す涙は思いの深さを表す
こんなに深く愛していると自覚した時には
あなたはもういない・・・・
俺の不用意な言葉があなたの中のわずかな猜疑心に
火をつけてしまった
一度決めたことは決して曲げない
頑固だから・・・
ねぇ・・・智くん
その口から俺に伝えてくれ
じゃないと・・・前に進めない
いつまでもあなたを求めてしまうから
たまらないんだ
いずれ別の人と幸せになる姿を考えるだけで
俺は醜い邪鬼と化す
そんな卑しい姿を見られたくない
いっそ・・・このままずっと
眠ってしまえたらいいのに・・・・
夢の中でならあなたと自由に触れ合えるのに
心から笑えるのに・・・
屈託のないその笑顔をひとりじめ出来るのに
突然鳴り響くインターホン・・・・
ピンポ~ン
「・・・・・・。」
出たくなかった・・・
身体が動かない
鉛のように重い
ピンポ~ン・ピンポ~ン
「・・・・・。」
ピンポ~ンピンポ~ンピンポ~ン
「!!!!!!!」
この押方!
まさか、

急いでインターホンに出る
「さ、智くん?」
『「オッそ~~~~い!!!」』
うそっ・・・・
智くん・・・だ
智くんの声だ!
俺はキーを解除して智くんのいる
エントランスまで待てずに走り出していた
