
・・・・ん?
ここは?・・・・
瞼を開くと見慣れた天上
耳に入る聞きなれた筆音
懐かしい絵の具の匂い
時折聞こえる咳払い・・・・
夢か・・・・
重傷だなこんなにもリアルで
こんなにもはっきり・・・・
近づく足音・・・
床をこすって歩くあなたの癖・・・
・・・そう、いったんそこの敷居で
音が変わるんだ・・ほら・・・
その音が俺の脇で止まる。
「起きた?」

「・・・・・!」
聞きなれた声、振り向くとそこには・・・
いつもと変わらない優しい面影が・・・
「さ・・とし・・くん?」
「もう大丈夫そうだね・・・マネージャーに電話したから
もうすぐ迎えが来るよ。」
「智くん・・・俺?」
「あぁ、・・・俺の部屋の前で・・寝てた。」
「・・・・・。」
「鍵、持ってなかったんだ・・・」
「・・・・・。」
手に持っていたコップを渡されて水を飲むよう促される
触れた指先が・・・熱い
俺、いつの間にかまた智くんのところに来てたんだ・・・
「智くん・・・俺、・・・」
ピンポ~~~ン
「来たみたいだね、歩ける?」
「えっ、あ、うん」
「今から撮影だろ?時間ギリだよ。」
はっ、昨日の振り替えで今日に変えてもらったんだ!
後ろ髪を引かれる思いで、支度をして玄関へ急ぐ

棚の上のトレーの鍵と携帯を・・・・・・
「あっ・・・」
あるはずの無いものに手をのばす・・・・
いつもそこに置いてあったはずの物・・・
こみあげる喪失感・・・
手先から冷たくなっていくのを感じた。
ゆっくりと握りしめる掌に深く爪がくい込んでいく
普段と変わらない智くんの態度・・・
俺の中の思考が少しずつ動きを止める・・・
俺はいったい何がしたいのか?
これからどうしていけばいいのか
分からなくなっていた
智くんの存在自体が俺の未来だったから・・・・
智くんにとって俺は?・・・必要だったの?
俺のために・・・・ってわかっているけど、
こうして智くんを目の前にすると、どうしていいか
分からないんだ。
俺のためじゃなくて・・・別の理由があるんじゃないかって
疑心暗鬼にかられてしまう自分が心底いやになって・・・
もの言いたげな智くんに言葉もかけられず
そそくさと部屋を後にしてまった。
進歩の無い・・・幼稚な自分に失笑した
何のために智くんがつっくた時間なのか
今の俺には余裕がなくて・・・・
頭では理解しようとしてる
でも・・・・心が、感情がついていかないんだ・・・
俺はどうやって智くんと向き合ったらよかったんだ?
動く景色がぼやけて見えなくなっていく・・・
精一杯こらえて潤の待つ現場へとむかった。

