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恫喝裁判にかけられた土生田勝正さんを支援する会

地元の企業が地区住民の訴えを封じ込めるために、一個人を狙い撃ちにして
6,000万円もの法外な損害賠償の訴えを起してきました。
恫喝裁判判という形式の悪質な脅かしに対する正当な判決を求めるために、
ご協力をお願いします。

伊那太陽光発電スラップ訴訟

弁護士  木嶋日出夫


反訴請求を認めた画期的判決
2015年10月28日、長野地方裁判所伊那支部は、片桐建設の請求を棄却し、土生田さんの反訴請求を容認して片桐建設に慰謝料50万円の支払いを命じる画期的判決を言渡した。

判決は、控訴されることなく、確定した。

片桐建設の損害賠償請求についての裁判所の判断判決は、太陽光発電計画に細ヶ谷地区の住民が反対することになった経緯や住民説明会における発言について詳細に事実認定をした上で、土生田さんの発言や反対運動について、

「計画に反対意見を持つ住民がその反対意見を述べたり質問したりすること自体は当然の行為であり何らの問題はない。」

「住民説明会において住民がそのような危惧を述べるに際して、その危惧する内容に科学的根拠がなければならないということはない」

などと判示し、土生田さんの行為に違法性はないとした。

当然の事実認定と法的判断である。

土生田さんの反訴請求についての裁判所の判断判決は、前記最高裁判決の論理を前提とし、以下のような判断を重ねたうえで「本件訴えの提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものと認められる」と判示した。

「住民説明会において、住民が科学的根拠なくその危惧する影響や危険性について意見を述べ又はこれに基づく質問をすることは一般的なことであり、通常は、このことを問題視することはないといえる」


「このような住民の反対運動に不当性を見出すことはないのが一般的であるといえる」

「少なくとも、通常人であれば、被告の言動を違法ということができないことを容易に知り得たといえる」

「A区画への設置の取り止めは、住民との合意を目指す中で原告が自ら見直した部分であったにもかかわらず、これを被告の行為により被った損害として計上することは不合理であり、これを基にして一個人に対して多額の請求をしていることに鑑みると、原告において、真に被害回復を図る目的をもって訴えを提起したものとも考えがたいところである」

その上で判決は「本件訴えの提起が違法な行為である」として、土生田さんの請求する慰謝料50万円を容認した。


本件スラップ訴訟の特徴と成果
細ヶ谷地区住民と土生田さんの反対行動の最大の特徴は、片桐建設に対して中止を要請したこと、説明会の場を設けるよう求めたこと、説明会の場でさまざまな危惧について発言したことにとどまっていたということであり、それ以上に、広く市民に訴えるとか、建設中止を求めて行政や裁判所に訴え出るとか、建設阻止のための具体的実力行動をとるとか等の行動は何一つ取っていなかったということであった。

それに対して片桐建設がとった態度は、土地の取得、発電設備認定申請の受理、立木伐採の許可等が得られるまでは、説明会すら開催しようとしなかったこと、説明会の場でも誠意ある説明をせず、それも3回で打ち切ってしまって建設を強行したことなど、不誠実なものであった。

訴訟では、本件の事実経過を具体的に明らかにすることに力をそそいだ。細ヶ谷地区の皆さんには、ほとんどの方々から「反対は細ヶ谷地区としておこなったものであって、土生田さんの個人行動ではない」旨書いてもらい証拠として提出した。

片桐建設の6千万円の損害賠償請求が、事実上も法律上も成り立つ余地のない不当極まりないものであることを徹底して明らかにすることが、反訴事件の不法行為性(客観的要件と主観的要件)の立証に直結すると考えたからである。

本訴が始まってすぐ「恫喝訴訟をかけられた土生田勝正さんを支援する会」がつくられ、裁判傍聴、集会、署名運動を展開した。インターネットのホームページも立ちあげられた。公正判決を求める5100筆の署名が集められた。

このような裁判支援運動が広く展開された結果、片桐建設に対する批判の声が、地域に広がっていった。片桐建設の名誉と信用は、土生田さんや細ヶ谷地区住民の皆さんの太陽光発電反対の言動によって毀損されたのではなく、自らの起こしたスラップ訴訟によって毀損されたのである。

本件判決が控訴されることなく確定したのは、このような広範な裁判支援運動の成果であったと思う。

もう一つの大きな成果は、裁判中である2015年4月1日、伊那市において太陽光発電など再生可能エネルギー発電設備の設置に関するガイドラインが施行されたことである。

太陽光発電設備については50キロワット以上を対象として、設置者の責務として、雨水、土砂流出など災害が発生しないよう適切な対策を講じること、立木伐採は自然環境に配慮し必要最小限にとどめること、周辺の景観や歴史的な景観に配慮すること、市民などと紛争が生じたときは、自己の責任において誠意を持ってこれを解決することなどが定められた。

さらに、設置者は、設置事業の施工内容等について、計画概要が明らかとなった時点で、市民に対する説明会を開催し、理解を得るものとする、市及び市民から環境や景観等に関する申し出があったときは、必要な協議に応じるものとすることも定められた。

本件訴訟が契機となって、国の規制がないもとで、地方自治体によって、大規模太陽光発電事業から地域の環境をまもる施工業者の責務が取り決められたことは、画期的である。スラップ訴訟に対する裁判支援運動が、地方政治も動かしたのである。