このドキュメンタリー映画のきっかけは、102年続いた「と場」(行政的には「屠場」というのではないか)が閉鎖されるためである。その閉鎖の理由は、一軒の精肉店しか使わなくなったからだ。
この精肉店が驚きだった。
牛を仕入れ、飼育し、と畜し、解体し、精肉にし、小売・移動販売までやるのだ。さらにその先があって、革で太鼓の皮張りまでするのである。
しかも、兄弟姉妹を中心とした家族でだ。
使いこんだ道具の美しさがあり、職人としての手技の見事さがある。
ドイツの農家では豚をと畜するとき、聖なる日に、家族全員が立ち会う。それを連想した。
その一族をたどると江戸時代(現七代目)までたどれると言う。
画面から伝わってくるのは、熱とマジメさである。それに圧倒される。
そして地域との繋がり。
盆踊りや、だんじりなどの参加がたいへん盛んなのだ。
それは「仕事」が地域や人間関係と密接に結びついていることを表すとともに、現在失われつつあるものであることも実感させる。「生業」を見る思いがした。
おぱあちゃんからするとお孫さんが結婚式をする。
場所はお城の天守閣である。
お父さんの「私たちを支配していたお城に攻め上る気分」というジョークは面白かった。
*上映後プロデューサーの本橋成一氏のお話があった。
彼は写真集『屠場』(「とば」と発音するらしい)の著者で、今回の映画作品のプロデューサー努め、さらに『うちは精肉店』という写真と文で構成した本を著している。
彼の言葉。
・と畜の人間側から描いた初めてのもの
・一家との出会いで生まれた
・命が見えなくなっている
300年近くにわたる被差別地域の家族史が圧倒的な存在感を持って迫る。
是非多くの人に観てもらいたい。
監督:纐纈(はなぶさ)あや
プロデューサー:本橋成一
撮影:大久保千津栄
製作・配給:やしほ映画社、ポレポレタイムス社
参考図書
『ドキュメント屠場』鎌田慧著 岩波新書
『世界屠畜紀行』内澤旬子著 解放出版社
*『食肉の部落史』のびしょうじ著 明石書店
*『屠場文化 語られなかった世界』桜井厚、岸衛編 創土社
*『うちは精肉店』本橋成一著 農文協
備考
私は過去に北海道と芝浦のと場を見学している。芝浦では「チークとカンザシのワイン漬け」と「豚テール」をもらったことがある。
チークとカンザシ
芝浦のと場の人に「牛肉のほほ肉のワイン漬け」を貰ったのは本当に幸運だった。それはほほ肉(チークとも言う)をゆでてあくぬきをし、生姜の薄切り、ローレルを入れ約1時間ゆで、同量のワインと醤油に一晩漬け込んだものである。薄くスライスし、食べるのだが実に美味であったのだ。サイボシを甘くソフトにした感じである。また、その時にカンザシ(首のスジ肉)で作ったワイン漬けも少量貰った。カンザシには細く幾重にもサシが入っていて、それがゼラチン様となって半透明になるので、見た目も実に美しいのである。これはほほ肉より美味であった。
現在では入手難で数少ない業者さんが珍しく作ったので、その好機に遭遇したのだ。都内の教員のと場見学会の二次会に潜り込んで貰った逸品でもある。中でもカンザシはたいへん珍しく、滅多に口にできるものではなかった。
豚テール
その時に芝浦名物(?)という豚のテールも同時に貰った。豚の尻尾というとあのクルリンとしているところを連想するが、尾骨のところで(つまり体内部分である)大人の指3本分ぐらいのしっかりした骨の周りに肉がついているのである。当然1匹に1本しかない貴重品である。
実は偶然なのだが「大きな森の小さな家」(ローラ・インガルス・ワイルダー作。つまり「大草原の小さな家」)で豚のテールをあぶって食べる所があるのだ。子供たちはそれが手に入ったと知ると歓声を上げ、実においしそうに表現されていたので以前より気にはなっていた。
食べ方はいくらでもあるが、私はローラ・インガルスを連想した塩焼きと、濃い味の焼豚風と、煮込みとの3種類の料理をしたがどれもおいしかった。少しアイスバインに似た食感であるが、肉の骨離れがよく、肉に密着感がありコクがあった。と場の人に言わせると今では食べる人がいないとのことであった。
