井上道義指揮、サンクトペテルブルグ交響楽団で「五番」
亀山郁夫の『悲劇のロシア』の中の「譜面のなかの二枚舌ショスタコーヴィチ」を読んで、交響曲五番の推理小説のような謎解きを体験したくてCDで聴いてみたところ、よく分らなかった。そこで、いいオケのいい演奏を聴きたいと思っていた。
井上道義指揮でサンクトペテルブルグ交響楽団が「五番」を演るというので飛びついたという次第。飛びついたため「いい席」にしたが、なんと一番前で三番目のチェリストと2メートルの距離。ハコの横浜みなとみらい大ホールはステージがステップで二段分しかないため本当に近い。
最初の曲は「ロメオとジュリエット」(チャイコフスキー)、これは何度も聴いている好きな曲。ロマンスと不安と激動が感じられるストーリー性のある曲。ティンパニと弦の早いパッセージ、パワーのあるトランペットが目立つ。
ところが席の関係で、打楽器が全く見えない。
チェリストが弓で楽譜のページをめくったり、ダブルベース(8本編成)の細かいテクニックが見えたりという収穫は大きかった。
指揮の井上道義は体を使った指揮で私の好みではない。昔から知っているしよく見てもいるのだが、一番前で見たせいか「動き」が目立つ。
二曲目は「火の鳥」(ストラヴィンスキー)。ハープがバイオリンの第一と第二の間に位置しているのだが、とてもよく鳴る。フルート、ピコロ、クラリネット、オーボエが楽器としてたいへんいい音。
ティンパニーとシンバルが派手に響く。
ところがオケとしてのスケール感が出ていないように感じる。スケール感とはなんなのか?うまく説明できないが。
ここで休憩。
五番を聴くにはどうしても打楽器が見えなければと思い、やや安いチケットで2階にいるはずの配偶者のところに駆けつける。席番を確認していなかったので、あわてて探すと手を振ってくれたので近づき席を交代してほしいと頼む。持つべきものは妻か?
2階の前から3番目で中央という絶好の席。
そして五番。
亀山郁夫の言う謎解きの前に名演奏に酔ってしまった。井上道義の体を使った指揮も全然気にならない。というより、ティンパニやシンバルに与える大袈裟な指示はファンサービスに思え好感を感じる。
それに応える打楽器プレイヤーの面々も見た目でパフォーマンスを作り上げる。
第三楽章のラルゴは大変美しい。
第四楽章の亀山郁夫の言う「252回のAの連呼」は分ったが、カルメンのハバネラのADEF#をモチーフにしたADEFは分らなかった。フィナーレ近くのティンパニと大太鼓の八連打は大迫力。
終わった時は拍手と掛け声がすごかった。
ここで井上道義がマイクをとり、オケの説明などスピーチをする。そしてアンコール。小品を4曲も!
最初が「白鳥の湖」(チャイコフスキー)、次が「ボルト」(ショスタコーヴィチ)から「荷馬車引きの踊り」。この曲がオケのスケール感を最大限に引き出したため、終わった後に多くの声がかかったほど。次が「シンデレラ」(プロコフィエフ)から「愛をこめて」、最後が「くるみ割り人形」から「ドラジェの精の踊り」。
アンコールが終わった時はスタンディングオベーション。
さらにステージに最後に残った二人(コンマスと指揮者)に自然に大拍手。井上道義はテレビでなんとなく人柄に魅かれていたが、実際にはファンサービス旺盛でスマートでハンサムな人。音楽ファンの期待を裏切らない指揮者。
CDで何度も聴いてはいたのだが、全然別物。
これだから生は止められない。
2013.4.21
SAINT PETERSBURG SYMPHONY ORCHESTRA
横浜みなとみらいホール