非常宣言とは...飛行中の航空機が燃料切れ、災害などの危機的状況に直面し正常な運航が不可能と判断された場合、操縦士は〝非常宣言〟を布告し管制当局に緊急事態を通知する。これが布告された航空機には優先権が与えられ他のどの航空機より先に緊急着陸できる。いかなる命令も排除できるためこれを航空運行における戒厳令の布告に値する宣言である...だそうです。で、この物語はその「非常宣言」を操縦士が布告したにもかかわらず、何の権限も与えて貰えなかった物語。その理由はただ一つ、この機内に殺人ウイルスを運んでいたからです。
この時期にウイルス、バイオテロと言うキーワードはやたらにタイムリーです。この監督さん、脚本も書いてるそうで陶然このコロナ禍の中からこの作品を思いついたのかと思いきや世界がコロナ禍に堕ちていくその以前からこの企画を温めていたようでコロナ禍に突入していく頃にはもうスタッフもキャスティングも決まっていたそうです。いやあよほど先見の明ががあるんでしょうな。しかもそれと同時にイビョンホン、ソンガンホと言った二大スターの共演と言う話題もあって尚且つ期待値も上がります。少々、胸糞悪いシーンもあるんですがなかなかようできた映画です。自分が小学校から中学校くらいの時ですか、ハリウッドで〝エアポートシリーズ〟なるものが流行りました。その先駆けとなったのが1970年度の「大空港」。主演バートランカスター、ディーンマーチン、ジャクリーンビセット、ジーンセバーク、ジョージケネディ、ヴァンヘフリンと当時としてはまさに破格のオールスターキャスト。この作品からエアポートシリーズなる、エアポート75、エアポート77、エアポート80とができるわけでして、チャールトンヘストン、ジャックレモン、アランドロンと主演もそうそうたる顔ぶれなら、脇役もカレンブラック、グロリアスワンソン、リンダブレア、ジェームズスチュアート、クリストファーリー等、主演に負けじ劣らじの映画史を飾った顔ぶれ、映画ファンなら涙を流して喜ぶ面々です。そして全シリーズに登場するのがジョージケネディと言う皆勤賞の性格俳優。なんかなつかしい...
時代は変わりましたねー、昔、テロやハイジャックと言えば爆弾や銃なんですが今は、少量の空気、そうウイルス兵器です。時代の移り変わりとともに物騒なもんも変わっていきます。今回はその物騒なもんを機内でばら撒かれる物語です。
パクジェヒョクは娘のアトピー治療のため仁川空港からホノルル行きスカイコリアの501便に乗り込むところだったが彼は極端な飛行機嫌いだった。ハワイに向おうする父娘に一人の若い男性が二人に話しかける。自らのプライベートなことを根ほり葉ほり聞く彼にジェヒョクは苛立った。振り切って飛行機に乗り込んだ二人だったが機内でその若い男が乗り込んでいるのを見て愕然とする。男の名はリュジンソク。多国籍企業の製薬会社に勤める科学者だった...。
刑事のクイノは妻と行く予定だったハワイをキャンセルし妻や娘に電話で小言を言われながらテロだと言うタレコミのあったマンションに向かった。タレコミに対し懐疑的だったク刑事だがマンションで無残にも体中から血が吹きだした死体を発見。死体からは正体不明のウィルスが検出される。そして部屋からはネズミを使って実験する模様が撮影された大量のテープがみつかる。その部屋の主が今日のホノルル行きスカイコリア501便に乗り込んだことがわかるまで時間はかからなかった。部屋の主の名はリュジンソク。そしてスカイコリア501便はク刑事の妻が乗っている便である。
地上が騒ぎ始めたころ機内ではトイレから出てきた一人の男性客が急に苦しみだし倒れる。その男性客の体からは見る見るうちに血液があふれ出しやがて死亡した。機内はパニックになる。リュジンソクは拘束されるがもはや手遅れ。巧妙に機内に持ち込みトイレにばら撒かれたウイルスはやがて拡散し、体調に異変をきたす乗客が増え始める。そして機長までも...。倒れた機長に変わって操縦桿を握るのは副機長のヒョンス。ヒョンスは娘を連れたジェヒョクと以前確執があったらしい。ジェヒョクが飛行機嫌いになった原因もそこにあった。
地上ではジンソクが務めていた製薬会社が数年前に中東からこの殺人ウィルスを入手。そしてジンソクが製薬会社を退職する際このウィルスを持ち出したことがわかる。ク刑事はこの製薬会社が抗生剤を持っていることを突き止めたが多国籍企業と言う壁が捜査の邪魔をする。ウィルスの存在を認めないのである。ついに国土交通大臣が乗り出し抗生剤を手渡すことになったのだがアメリカはスカイコリア501便のホノルル空港への着陸を拒否。止む無く便は仁川に戻ることに。だが燃料も残り少なくなり機内では次々と乗客が倒れていく。もはや乗客、乗務員、感染していない者はいない。501便を受け入れてくれる国はない。果たしてジェヒョクたち乗客の運命は...。
よく練りこまれた脚本、そしてイビョンホン、ソンガンホと言う2大スターの顔合わせ。ハリウッドでも活躍するイビョンホンは日本にもファンが多い二枚目韓流スター。うちの得意先の女性重役さんの部屋は所狭しと彼の写真が貼られています。片やソンガンホ、アジア映画で初めてアカデミー賞を取った「パラサイト/半地下の家族」での好演が記憶に新しい彼も世界に顔を知られるようになりましたが彼は韓流映画の火付け役であり自分が大好きな作品の一つ「シュリ」の主演者の一人です。息の長い俳優さんですね。そんな韓国の2トップが共演すると言うことは韓国映画界の力の入れようがわかるというもの。
しかしですね...。冒頭に話した胸糞悪いシーンはやはりこれ、ホノルルで受け入れてもらえず仁川へ引き返すわけですが燃料が足りず成田へ着陸しようとします。「おっ、これは珍しく日本は善玉? ここで許可して日韓友好?」と一瞬思いましたが韓国がそんなことするわけがなく、自衛隊機が発進、おまけに射撃までしてくると言う、「おいおいおいおい、レーダー照射はお前らやろ」と思わず突っ込みを入れたくなりました。「アメリカより扱いが悪いやないか」とまあ映画で憤慨してもしゃあない。しかしたとえ威嚇射撃とはいえ自衛隊機が民間機に向かって撃ってくることはありえへん。少なくとも日本の観客はこれでリアルさが半減です。
しかしこの作品を手掛けたハンジェリムと言う監督さん、まだ47歳だそうです。この成田でのシーンとラストの締め方は少々まだ甘いかなとも思いましたが昔懐かしハリウッド航空パニック映画と現代社会の大きな闇バイオテロとの融合は大したもの。航空機のドアがガチャンッと閉じられ巨大な密室が空高く舞い上がると言う緊張感、そして次から次へと襲い掛かる機内での危機、また危機。混乱のリアリティはホント伝わって来ました。
でもねぇ、蒸し返すようですけど成田での着陸シーンは帰りの道々考えたんです。コロナ前の日本政府なら着陸は許可してたやろなぁとか、コロナ禍後の今やったらどうしたやろなぁ、でも最後の着陸地、韓国の人間でさえ反対してたんやからね。とかね。そう考えるだけでも映画と言うのはためになります。しかしこの「非常宣言」て言うの、この映画では何の役にも立っとらんけどこの題名ってどうなん?
