とあるチャンネルで、観光客向けの大型飲食店で提供されている海鮮丼を暴く、といった内容のものを観た。

目利きの投稿者が、このマグロは冷凍ですね、だとか、ウニがミョウバン臭くて最悪です、だとか、全体的に鮮度が悪く、切り身の色も酷いです、などと遠慮ない言葉で海鮮丼の具材を評していくのであった。


ふむふむそんなもんかね、と観ている最中にふとこういうことを考えた。


こうである。


ある貧しく気の弱い家族が、久しぶりの旅行へ出かける。父は海鮮の有名な地で、家族に鮮度の良い魚介を一つ奮発してやろう、と、そういうつもりで出かけたのである。


ところが、この家族の父には殊に気の弱い所があり、地元の人間に愛されている名店や、個人店に入る勇気がない。

気の難しい店主が出てきやしないだらうか、地元の常連ばかりで場違いになりはしないだらうか、など、考え出すと、怖気づいてしまうのである。


その点、観光客向けに大きく開かれた店は安心である。

からそうした店を、選んだ。


入店後メニューをザッと見た後、呼び出しボタンを押す。呼び出しボタンは席に案内され着席する前に確認していた。

お店オススメ、と書かれた海鮮丼を頼む。高い。けれど、思い切って頼む。


そして、運ばれてきたものが、かの投稿者が酷評した海鮮丼である。


豪華に盛り付けてある、年長の息子は大はしゃぎである。小学四年生の息子も相好を崩す。

父は役割を終えほっとする。


しかし、食べ進めるうちにこの家族も直ぐに気がついた。魚の鮮度が悪いことにも、一見豪華に見える盛り付けの粗にも。

39歳の父は、あぁ、こんなことなら通販でも何でも、鮮度の良い蟹を購めたほうが良かった。あぁ、この忌まわしい海鮮丼に使う金があれば、蟹の上等なものが買えたのに、あぁ、俺はほんたうは蟹が食べたかったんだよ、など、泣きたい気持ちで思うのである。


しかし口には出さず、美味しいなぁ!やはり、海の近くは違うなぁ!など言いながら、食べる。

家族もそれに応えて、マグロやば!だのウニ初めて!だの言うのだ。


満足満足、と言って店を出る。そして、2度とその海鮮丼の話をしないのである。


そんな控えめで素朴な家族のことを、考えた。