私にもいろんな事情があり、小学校の5年生と6年生のちょっとは
特別な経験をした。
それは、三重県の小さな町へ、里親に出されたこと。
いわゆる山村留学というやつです。
その1年とちょっとは、縁もゆかりもない他人の家庭で育てられた。
数羽のにわとりを飼っていて、生みたての卵がとれる家だった。
おじいさん、おばあさん、そして2人のお姉さんのいる
家族の一員に私は仲間入りした。
うちのお母さんは不器用で私の長い髪を結ぶ器用さはなかったけど
ここのお母さんは、毎日可愛く髪の毛を結ってくれた。
それがとてもうれしかった。
学校も転校して、生まれて初めての転入生を体験した。
毎日杉の木の、おい茂った細い通学路を通り、30分歩いて
小学校に通った。
安城市はお世辞にも都会ではないけれど、山村留学したところは
○○群○○町だったので、私はそこでは都会から来た女の子だった。
しかも、1学年に1クラスという小さな小学校だったので、
私は一躍学校中の有名人となった。
そこでできた友達はみんなとても温かくて、町のあたたかさを
感じるような心のきれいな子供たちだった。
彼ら、彼女たちに温かく迎え入れられて、何か少しお姫様扱いで
居心地の良い、学校生活だった。
子どもながらにいささか打算的であった私を、素直になることの
大切さを教えてもらった。
起きること、事情は子どもの私には全てが分からなかったけれど
今振り返ると、あのときの温かい人のぬくもりが
結構冷めた子供だった私を人間らしく育ててくれた気がする。
本当の家族としばらく離れ離れになって寂しかったり、
慣れない町の生活にたくさん戸惑ったけれど、
あの時があったから、今の私がいる。
年賀状を書くこの季節になると、いつも
もう一つのふるさとを思い出すのでした。
― おわり ―