『回復する人間』 ハン・ガン
こちらは短編集

表題作は1週間前に姉が亡くなる。その葬儀で捻挫し、そこにお灸をしてもらって火傷をする。それを忙しさにかまけて化膿しより酷くなり、医者に診てもらうところで話は始まる。姉との関係がどこからギクシャクしたのかなど考えながら…ラストに好きだった自転車で坂を下る。ペダルから足を離して…ここから世界が少し色づくような感じがする。
この話、未来の話が挿入される。『あなたは知らない。…していくことを知らない。』と何回か入ってくる。変わった文だけれど、なんとなくイメージはわかる。
映像だと自転車で坂道をわぁーっと風をうけて下っていくシーン、そしてラストシーン。その間に未来のシーンが挟まれる。傷は治っていき、明るい未来であるということ。

表題作含めすべての短編が回復する人の話。


1番好きだったのは、原作のタイトルだったらしい『火とかげ』
原題は『黄色い模様のヨンウォン』というタイトルで、ヨンウォンという言葉にはトカゲという意味と、同じ音で『永遠』という意味もあるらしい。
それが話のラストあたりに出てくる。


2年前に交通事故を起こし、左手が使えなくなり、右手を無理矢理リハビリしたせいで右手も思うように使えない画家。夫は妻(主人公)の診療費、世話などの負担からか、感情を失い日々苛立っている様子。そこに友達が久しぶりに電話をくれる。写真館にあなたの写真が飾ってあると。そこから思い出す過去の記憶。そして絵を描いてみようとアトリエに行き始める。

この過去の話がいいです。まだまだ健康だった独身時代。研究者っぽい男性と登山で出会い撮ってもらった写真。その写真を見に、そして友人に会いに出かける。
今まで手のことで、病院以外ほとんど外にも出なかった日々だったが、少しずつ外に出て行く。
黄色の絵の具で強い黄色の色を作り紙に手のひらを捺す。光や木漏れ日を感じるようなラストシーン。
何回も読みたい話。



木漏れ日を点で描く画家という人が出てきて、話では女性だが、
郭仁植クァク・インシク
の絵を見て感じたことだそう。


途中、2冊の中で同じフレーズを読んでどこだったか探したけれど、子供の頃船に乗っている時に見た鰯の群れ。キラキラしたものが群になって目の前を通り過ぎていくというこの体験は、とてもインパクトのあったことなんだろうな。