【可夢偉レポート】モナコGP DAY1(P1&P2) | GOODSMILE RACING 広報ブログ

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モナコGPが開幕しました。


このグランプリ、F1の中で、最もエンターテイメント性があるレースといっても過言ではないでしょう。


今回が70回目の開催ということですが、
前回のスペインGPで誕生日パーティを開いたフランク・ウィリアムズさんが70歳ですから、ウィリアムズさんが物心ついた時には、すでにモナコGPが行われていたというように考えれば、その歴史の長さが解りやすいかも知れません。


一方、日本では、F1の本格的なテレビ放送が始まったのが1987年ですから、約25年の「一般化」の歴史ということになります。
この頃は、携帯電話も、ポケットベルも無く、ファックスですらヨーロッパでは珍しかった時代ですね。

もちろん、この日本のF1情報の拡散化25年の歴史の中で、エンターテイメントの歴史こそ大きな変容は見せていませんが、
F1マシンの技術(エンジニアリング)は、大きく進歩し、
今日のF1はかつての「壁際数センチで走る」といった「勇気の象徴」は「当然」のこととしてそのままに、他のサーキットのレースと同じように「サイエンス」で走るというものに変容しています。


ところで、今日のP1とP2では、誰もクラッシュしていません!

(もちろん、最後の百分の数秒削る状況となれば、壁との接触はあるかもしれませんが・・・。)

これは、
現在のF1ドライバーの技量が、非常に高い事の証左である
と言っても過言ではないでしょう。


日本人は公道レースに弱いと言われていた25年前と今日を比べると・・・
KOBはP1もP2もトップ10。

2008年にNAKが、日本人として初めて入賞して、
2011年にはKOBが5位に入賞して、その記録を更新しました。
(ちなみに、このNAKもKOBも2006年の、これも世界的に有名な公道レースであるマカオF3GPでトップを争った中です)

若い人は、必ず進化するというのは、
NAKとKOBの、この伝統でのレースでの活躍が証明してくれているようで嬉しい限りです。



さて、感慨にふけるのはここまでにして、話をレースのサイエンス側に戻しますと、
モナコでのセットアップのキモは
「ありったけのダウンフォース」
「最大のメカニカルグリップ」
です。

過去数戦に渡って触れたエンジンのパフォーマンスのプライオリティは、下がります。

平均速度が低い事と、それにより横Gが少ない事で、例えばエンジンオイルの偏りとが楽になり、さらに最高負荷での使用時間が短い(トップギアの7速には、エルメス(馬具屋)の前と、トンネルの出口の2回しか入りません。)ことから、
多くのチームが、ライフ(寿命)に近いエンジンを、このグランプリに投入します。

特に、今日のP1とP2は成績には影響しないので、
おそらく一番古いエンジンが使用されていることと推測されます。

実際、ケーターハムのKOV車がP1でエンジン・ブローの憂き目に遭ってしまいましたが、ちょっとライフが早めに来てしまった・・・と、いう感じでしょうね。
チームの公式リリースにも「どうせ、明日からは違うエンジンだし、問題は無い」と、言っている位ですから。

ただ、だからと言って、前戦のスペインGPのようにエンジン負荷が高いからと言って、新エンジンを投入することはないでしょう。
おそらく、バーレーンの予選&レースに使用したエンジンを投入する・・・と、いうのが常套手段でしょう。


ただし、ドライブトレーン(駆動系)とハイドロ(油圧系)は、割と厳しいです。

右左上下にちょこちょこ走るので、7速ギアボックスの今日のF1マシンでは、おおまかに1ラップあたりのギアチェンジの回数は60~62回(大体62回)で、これをレースでは78周しますので、4680回から4836回することになります。

(ちょっと前の5速~6速の手動ギアボックスでは「力」でシフトレバーを操作していた(もっと前はクラッチも)ので、グローブに穴が空いたり、手のひらにマメが出来たり・・・と、いった「武勇伝」があって、そういうとこからも「モナコ」の名手が神格化されたということもあります。)

 
ただ、この「マニュアル」の時代は、例えば、3速が死んでも「飛ばし」ギアで、「いたわって」完走できたりもしたわけですが、
今日の「フライバイワイヤ」の時代では、油圧が下がればギアのセレクタ・フォークが動かなくなり、ギアチェンジ不能でリタイヤ。。と、いうように、
物理的な伝達機構であるトランスミッションが、約4800回、完全に制御されなければならないという難しさが潜んでいます。


つまり、通常以上に、信頼性が望まれる、整備を担当するメカニック達には厳しいレースでもあります。




 さて、実際の作業としては、公道レースゆえに、ギャップ(起伏)の乗り越えとカーブ(縁石)の乗り越しのチェックが最初の作業です。
特に、ここ数年はT1のブレーキングゾーンにギャップがあり、
ここで車高が低すぎてボトミング(底付き)すると、うまく止まれません。

車高を低くすると、ダウンフォースが増え、コーナリングスピードが上がるので、チームはできるだけ車高を下げたいのです。

ギャップは、最高速度の出るトンネル出口にもあって、
ここではダウンフォースが聞いて、車高が下がってくるので、ここでも、ボトミングはブレーキングに影響しない「こする」程度に調整しなければなりません。


ですから、P1とP2で、T1をブレーキミスして、直進するドライバーを笑ってはいけません!
車高をできるだけ下げて、ボトミングするかしないをチェックしているのですので。
(もちろん、QualifyとRaceで、T1を直進するのは別です・・・。つまり、ミスというヤツです。)



こうした、作業を、モナコではP1とP2で全て終了したいのですが、
あいにくP2が2度の降雨で、コンディションが安定せず、多くのチームがセッティング・メニューを消化できていません。
KOBの所属するSauberもメニュー未消化については、例外ではありませんが、ある程度のデータ回収は出来ていることと、その結果によるポジションも、そう悪くないので・・・順調な一日だったと言えるでしょう。

詳しくは説明することは残念ながら守秘義務に抵触するので、できませんが、昨年型のC30からC31へのアップグレードの一部は、
このモナコのコース特性でのパフォーマンス・ゲインが、一番大きいハズということで開発したモノで、
この部分においては、抽象的にはMS-05MS-06Sの違いくらい(残念ながら3倍は速くないです。)違います。
(すいません、私、ガンダム宇宙世紀リアル世代なもので・・・。何せ、敵は銀色x2やら赤色やら、青色やら全てRX-78級ですから。)

そこのアップグレードの部分は、良く機能してくれているようで、KOBもPERもP1、P2においてペースは競争力のある内容でした。
ただし、明日24日の休息日を挟んで、予選日25日の土曜日とレース日の26日の天候は、雨がらみとの予想ですので、今日の順位が良いからと言って、まだまだ安心はできません。

詳しいレポートは土曜日の予選後に出来ると思います。
では、レースでのトップ10を目指して、頑張ります。


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※レポート内のドライバー略称は以下の通りです。

KOB=小林可夢偉
NAK=中嶋一貴
KOV=ヘイキ・コバライネン
PER=セルジオ・ペレス