テストレポート、GSRのレースウィークに掛かっていたので、遠慮しておりました。
それにしても、0号車優勝おめでとうございます!
さて、F1ムジェロテストです。
各チームとも、過去4戦の間に、大幅なアップデートを口上してたため、いろんな予想がされていましたが、いざ、ふたを開けてみると、実際は外観でそうと解るものは、そう多くありませんでした。
目に付いたのは、
多くのチームがエキゾーストのレイアウトや吹きつけ方式の変更トライ、
それに合わせたポンツーン後部の処理の変更と、
フロア後部上部の処理と変更(ストリーム・ガイド)程度です。
この部分では、フェラーリが一番目立つトライをしていました。
ただし、フェラーリのそれは、形状、ポジション共に、非常にオーソドックスなタイプで、
いわゆる「マジック・デバイス」的なモノではありませんでした。
逆に、マジック的な大きな数字を追わずに「着実」に上げるという手法と言えるでしょう。
他にも、ウィリアムズ、トロ・ロッソ、ケータハムが、このポイントのトライをしていました。
後は、フロント・ウィングのプロファイル変更とか、そういったものです。
このフロント・ウィングのトライが目立ったのは、フォース・インディアと、フェラーリです。
実際、こうしたフロント・ウィングの変更の方が、全体的なダウン・フォース・レベルの動的特性の向上には好影響が望めると言えるでしょう。
現在、「マジック・デバイス」と、呼べるのは、メルセデスのいわゆる「ダブル・DRS」ですが、これをトライしている様子のチームはありませんでした。
それよりも、バーレーンでレッド・ブルとロータス以外のチームが経験した「謎のペースダウン」の原因追及、具体的にはピレリ・タイヤの理解を進める作業に重点を置いていた観があります。
これには、一定の燃料搭載量で、黙々と、細かなパラメータを変更してのトライが必要なのですが、二つの理由で、ほぼ全チームが、満足にはデータ回収が進められなかったようです。
ひとつ目の理由は、天候の不順。
初日は、雨で完全にセッションを棒に振り、2日目は、風向きが変わって、コンディションの一貫性に欠き、3日目は、その両方(午前がコンディション不良、午後が風向き変化)でした。
二つ目の理由は、ムジェロのサーキットのレイアウトが、現F1スタンダードのティルケ・スタイル(ストップ&ゴー)とは違って、中高速コーナーの連続で、シケインのような低速コーナーが無い事です(唯一、そうだとすれば、T4-T5とT10-T11)。
さらに、縁石も低くて、カーブ・ライディングのテストにもならないということもあって、メカニカル・グリップの性能向上確認が難しいということです。
中高速コーナーは、それこそダウンフォースを効かせて通過するので、メカニカルな部分は、サスペンションがムーブメント・ストッパーで止まってしまって、エンジニア的にはテストにならないのです。
ただし、ドライバー的には、これぞチャレンジのし甲斐のあるレーシング・コースという事で、特にWEBなんかは絶賛していますが、ほぼ全ドライバーが、それを感じている事でしょう。(危ないと表したPETを除いて)
ダウン・フォースの向上部分は、こうした中~高速コーナーの通過速度の向上で確認できますが、肝心な低速コーナーやカーブライディングとの兼ね合わせは、スペインGPのT12やT14-T15まで待たねばなりません。
さらに、フェラーリを除く、ほぼ全チームがV10時代(Sauberの場合は2003年が最後)以来、走行履歴が無く、最適なギアレシオも不明だったことが、一貫性を欠くコンディションのおかげで、結局、解らなかった・・・と、いう問題もありました。
低中速コーナーは、ハイギアードで通過するのとローギアードで通過するのとでは、U/S
(アンダーステア)もしくはO/S(オーバーステア)の特性が変わるために、その特性の「結論付け」が難しかったということもあります。
(ムジェロは、加えてアップ・ヒルもダウン・ヒルもありますので、なおさら。)
もうひとつ加えるなら、残り少なくなったテスト用タイヤのセット数(年間マシンあたり100セット・・・開幕前のテストで、すでに大半を使用済み)を、ウェットタイヤやインターメディエートタイヤに使用したくないということもあり、やむなくウェットやインターを使用した場合、残存セットで、いかに「同条件比較」をするかも、頭の痛い問題でありました。
こうした状況から、今回のテストは、あくまで「走行機会」の追加であり、
もちろん、各種のテストはできるものの「有益な」というデータ回収は難しかったというのが、現実であったという見方が出来ます。
もちろん、時間を取られる外観では判断できない冷却系の変更や、ステアリング系統、エキゾーストの熱害といった信頼性向上パーツの性能確認には、大変有意義ではあった事は、間違いの無い事ではあります。
おそらく、この部分が、今回のムジェロテストで、各チームとも、大きく性能向上を果たした部分でありましょう。
そうした中でも、上海のプラクティスに投入するも、即刻性能向上を果たせなかったロータスのリヤウィングとフロアのコンビネーションや、Sauberの新エアロ・パッケージなどは、性能向上を果たせた観があるとは言えるでしょう。
が、全体的な内容としてはコンディションの一貫性を欠いた事から、限定的であったと言わねばなりません。
特に、ドライとなった2日目にハイドロ(油圧)系のトラブルで、距離を稼げなかったフォース・インディア等は、痛かったことでしょう。
いずれにしても、全チーム(不参加のHRTを除く)とも、各種の排気ソリューションを試して「マジック」に近い、性能向上の足がかりを掴もうとしている・・・と、いう段階と見るべきで、
今回のテストで得られたデータを元に、スペインGP以降に、アップデートが投入されるものと見て良いと思います。
で、肝心のKOBのテストはどうだったかというと、担当したメニューは、初日の天候不順のおかげで全てをこなせた訳ではありませんが、重要メニュー、特に空力パーツに関しては体感できるレベルで向上しているとだけしか言えません。(残念ながら、具体的には、言えません・・・。ご勘弁を)
もっとも、大事なのは、厳しい競争の世界ですから、Sauberだけが性能向上しているわけではないということです。
他チームも当然、性能向上してきているハズです。
Sauberが良くなった分と同等に他が良くなっていたとしたら、相対的な性能は変わらないのです。
予選スピードの優劣もさることながら、我々の仕事は、レースのゴール時に、相対的に1mmでもライバルより先にゴールするという仕事なので、絶対的性能(スペック・ピーク)よりも、動的性能(ダイナミック・パフォーマンス)の優位性の重要性が高いというわけです。
確かに、3日間を通して、ラップタイムと順位は付きますが、実際には誰がどのタイヤで、どれくらいの燃料積載量で、ラップタイム計測しているかは推測の域を出ません。
丁度、いいサイトがありますので、皆さんも、それぞれの推測を、今週末のスペインGPまで楽しまれてみてはいかがでしょうか?
http://f1tests.co.cc/2012.php?tw_p=twt
※
ムジェロ仕様(上)と
開幕メルボルン仕様(下)で、サイドポンツーン上のブリッジ・ウィングの形状が変わったのが解るでしょう。
※テスト時の雨で、走行できずにチームもドライバーも手持ちぶさたの図。
あ、ちなみに、ムジェロは、現F1ドライバーの人達には、F1マシンではなじみのないコースですが、
少なくともKOBやGRO、そしてHULにはなじみのあるコースです。
写真は、2007年7月に行われたユーロF3ムジェロ大会のものです。
みんな、若いでしょ?
この写真撮影の日から、約2年以内に、彼らはF1に乗っている・・・と、いう史実。
この年の、ユーロF3、ゴールデンイヤーでしたねぇ。
ちなみに表彰台は、左からKOB,GRO,BUE、階段で談笑しているのはHUL、KOBです。
============================
※レポート内のドライバー略称は以下の通りです。
WEB=マーク・ウェバー
KOB=小林可夢偉
GRO=ロマン・グロージャン
BUE=セバスチャン・ブエミ
HUL=ニコ・ヒュルケンベルグ