An eon ago8
ロストボーイ1
ある時、私は大学の研究室で本を探していた。ガラスの扉のついた大きな本棚がある。そこに背中から光が入り、黒い影になった自分の姿が映った。私は自分の姿が怪物のように思われた。全身長の四分の一になるような大きな頭、短い足、ああ、宇宙人ではないか。自分は宇宙人のようにひどい姿であることがその時に初めてわかったのだ。こんなひどい姿であれば、学問ができようができまいが、生きていくのはむずかしい。どうせ宇宙人のように醜いのであれば、人を愛することもできない。卑怯者として生きていけばよい。この時以来、人と会話することにも困難になった。普通の道徳観念からできるだけ違うように生きなければならない。自分のことをロストボーイと呼ぶようになった。
さて、如何に生きるべきか。痛切な孤独感に捉われ、普通の社会人になることは諦めることにした。私は、早々と老人のように疲れやすくなっていた。歩くのもつらい。息をするのもつらい。自分は普通の人間と違う。異人種だ。どうせ異人種なら何でもしてやる。だが何もできない。ロストボーイは、町を、町の裏道をできるだけ、人の顔を見ないようにしながら、息を切らして歩いていた。