旅人かえらず79-81

西脇順三郎詩集 筑摩書房 日本文学全集から

 

七九

 

九月になると

長いしなやかな枝を

藪の中からさしのばす

野栗の淋しさ

その実のわびしさ

白い柔い皮をむいて

黄色い水の多い実を生でたべる

山栗のなかにひそむその哀愁を

 

八十

 

秋の日ひとり

むさし野に立つ

ぬるでの下に

 

八一

 

昔の日の悲しき

埃のかかる虎杖いたどり

木の橋の上でふかすバット

茶屋にのこるリリー