先日、【鉢かづき姫】を取り上げて、その登場人物及び物語の舞台となる土地の具体性に驚きました。
そんな中、いきなり『鉢を被らされる』という長谷観音からの謎のミッション。
長谷観音って何者なのか?が気になったんですけど、そんな中また別の物語を発見しました。
それが、鉢かづき姫に似てるんです。鉢は被らないですけど。
タイトルは【中将姫物語】
これまた、登場人物の名前が具体的に特定されています。
鉢かづき姫の時も父親は藤原氏でしたが、今回もそう。
姫の父親は藤原不比等の孫である、藤原豊成。
ちなみに藤原不比等は、大化の改新でお馴染みの中臣鎌足の息子です。
不比等は古事記の編纂に大きくかかわっている人物でもあります。
不比等には四人の息子がおりまして、人望厚い次の天皇と目された長屋王を謀反の罪で葬り去って一大藤原政権をぶちたてるんですけど、流行り病の天然痘で四人全員死ぬという悲劇に襲われます。
四兄弟の長男である武智麻呂の息子である豊成。
完全に実在の人物じゃないですか!
豊成は、四兄弟の二男と四男の娘、つまり姪っ子を妻にしているようです。
身内で権力固めてますなぁ・・・
母親は、紫の前と呼ばれる女性で、この姪っ子の一人、もしくは別の親王の娘なのか?とこちらははっきりと分かりません。
でもってね、やはり子宝にすぐ恵まれなくて大和の長谷寺に祈願しているんです。
同じだね
で、中将姫を授かるのですが、7歳の時に紫の前は亡くなってしまい、父は後添えを迎えます。
それが照世の前という女性。Wikipedia情報によると橘諸房の娘か?という事です。
橘諸房はちょろっと調べたけど出てきませんでした。橘諸兄(もろえ)という人物は実在します。
諸兄も当時の、最高実力者の一人です。
照世の前は、美貌で才能もある中将姫を邪険に扱い、更には盗みの罪を着せて虐待するなど酷い継母ぶりを存分に発揮。
これも、鉢かづき姫と同じですね。継母からの酷いいじめを受けるという体験。
父親は何をしてるんだよ!っていうか、姫の身の回りの侍女たちは何をしてるんだよ。
13歳になると内侍となります。
なのに、豊成の諸国視察の隙に家来に命じて姫の暗殺を画策します。
血こそ繋がってないけど自分の娘で出世もしてるのに、殺そうとはどういうことなのか。
自分の出世に繋がりそうなのに、そこまで憎むのはやはり美貌と才能への嫉妬なのだろうか。
完全に白雪姫の継母状態です。
しかし、命じられた家来は姫を殺められずに密かに寺に匿います。
豊成が戻って、姫は連れ帰られます。
継母への処罰はどうなったんだか分かりません。中将姫は告げ口するようなタイプではないんです。信心深くて1000巻の写経をしたりするくらいです。
(當麻寺に伝わる伝説では、照世の前は後に罪の意識で自害したあります。そういうキャラかなぁ・・・と疑問は湧きますが。)
16歳になると、姫は淳仁天皇に望まれるもこれを断り、當麻寺の尼になります。
法如という名をもらい、極楽浄土への思いを募らせながら励んでいると、観音様と阿弥陀様が現われて、法如はたった一晩で蓮華の糸で曼荼羅を織り上げるという奇跡を起こしたと伝えられています。
當麻曼荼羅(たいままんだら)
参照⇒當麻寺
参照⇒中将姫の伝説
29歳の時に入滅。
うーーん・・・
鉢かづき姫のような恋愛要素は無し。
そして、尼になった後に驚きの奇跡のエピソード。
少女時代の中将姫物語と、法如尼になった後の物語は別人みたいですね。
人間というよりも極楽浄土の人のように描かれているんです。
美しく才能もあったのに、華やかな宮廷仕えを拒否して尼になることを選ぶ人生。
まあ、宮廷で出世するのが女性の幸せかって聞かれたら絶対にそうとは言えません。
天皇ったって、若くて思慮深くてイケメンとは限らないし・・・w
当時としては、そんな生き方を選ぶって珍しかったかもしれませんけどね。
普通、父親が許さないでしょ。
あの藤原家の姫なんですからね。
おいそれと美貌と才能の娘を手放すとは思えません。
後宮に入って、源氏物語の登場人物みたいな暮らしも出来たかもしれないけど、あれだって源氏に求められても断る朝顔の君や、天皇に望まれつつそれを喜ばない朧月夜の君なんかもいますもんね。
そう考えたら、俗世で散々嫌な思いをした(照世の前もそういう女性の出世だとか嫉妬の渦巻く世界の人だったかもしれませんし)ので、若くして悟っちゃったのかもしれません。
鉢かづき姫の【周りに結婚を認められて末永く幸せに暮らしました】というエンディングは、物語のハッピーエンドの定番ですけど、中将姫の方はなんかリアルではあります。
ただし、尼になった後のストーリーは、急に神がかってるから、同一人物って感じはしません。
あんなに具体的な人物勢揃いだったのに、一気にファンタジーになったような気がします。