
我慢は両派の剣である
かつて、わたしの母は、次のような光景をみて衝撃を受けました。わたしが、彼女の目の前で、歯医者をけってしまったからです。もちろん、わざとそうした訳ではありません。実際は、歯医者が虫歯を治すために、歯に穴を開けていた間に、わたしが耐えられなくなったのです。その結果、無意識のうち、その防衛反応として、歯医者をけってしまったのです。
治療を受ける前に、局所麻酔を注射されたので、耐えられるはずでした。おそらく、わたしの我慢が足りなかったので、先生をけってしまったのです。可哀そうなファイン先生!
幸運にも、ファイン先生は我慢強かったので、わたしのこのような行動に冷静に対応してくれました。わたしは、あとで母に叱られました。でも、その後の人生で、何とかそうしたつらい体験を克服してきました(笑)。
その「事件」以来、わたしは大騒ぎをせず、何度も無事に歯医者の治療を受けてきました。ですから、日本に引っ越してきたときにも、歯医者の治療は問題なく受けられると思っていました。局所麻酔さえしてもらえればという条件ですが。
あるとき日本の歯医者で、歯冠をかぶさられたときでした。局所麻酔が当たり前だと思っていたわたしは、次のような治療方法を体験し、たいへん驚きました。
「お金がかかるので、麻酔をしません。特に必要ではなければ」と歯医者に言われたのです。そして、「痛いときは、手を挙げて」と彼が説明を打ち切りました。
「えー?どういうことですか!」と、ひそかに心のなかで叫びました。それでも、「我慢が美徳」という日本なので、ここは我慢しようと決心しました。でも、治療の途中で、痛くなってきたので、手を挙げてしまいました。
わたしは、自分が手をあげたので、歯医者が麻酔をしてくれると思いました。でも、わたしの楽観的な予想とは大きく異なり、「もうすぐ終わるから、我慢してください」と指示されたのです。
さすが、日本人は我慢強いです。こうした我慢強さがあるからこそ、昨年発生した大震災のときでも、協力したり、弱いものを助けたりして、困難を乗り越えることができるのだと思います。正直にいえば、わたしは、こうした日本人の特徴を尊敬し、見習っています。その結果、私も少し我慢強くなりました。でも、まだ日本人並みにはなっていません。それでも、昔に比べればましになりました(笑)。
日本人の我慢について考えているとき、意外なひらめきがありました。それは、次のような点です。「我慢」は基本的に美徳と思われているにもかかわらず、深刻な欠点もある。
最悪の場合、問題に直面するとき、最適な解決法まで到達できない原因になりかねません。その場合、変えられる、あるいは変えるべき課題や問題をそのまま放っておき、何もしない言い訳になってしまいます。
日本人と比べると、アメリカ人は我慢が苦手です。原則として、それはいいことではありません。しかし、交渉に入るときに、我慢は悪影響を与えます。我慢できないわたしのような「わがままなアメリカ人」は、一生懸命、自分が望む交渉結果を追求します。負ける可能性があるなかで、勝てば、自分にとって理想的で、最高の報酬が得られます。
それとは対照的に、平和を守るため、あるいは争いを避けるために、多くの日本人はいわゆる「ウィン・ウィン」の姿勢を取り、自分と相手の両方とも納得できる結果を追求していきます。そのために、お互いが妥協し合っていきます。
Steven Coveyが最新の書籍、The Third Alternative、The 7 Habits of Highly Effective People (七つの習慣)で説明するように、慎重に考えると、「ウィン・ウィン」という交渉方法は、実は「ルーズ・ルーズ」 (交渉し合っている二人とも負ける)の交渉になる可能性があります。この交渉方法では、お互いに納得できる結果を達成するために、二人とも妥協し合わなければなりません。つまり、この方法では、どちらも完全に満足する結果になりえないのです。
この欠点を乗り越えるために、Covey博士は、彼が名づけたthird alternative (三つ目の代替案)を提案します。次の例が示すように、二人の交渉者が目指す結果を達成するこの三つ目の代替案は、問題に対する根本的な考え方の変更から生まれたもので、相乗効果をもたらします。
彼の書籍には、「DDT」という殺虫剤の例があります。マラリアを媒介する蚊を退治するDDTは、長期的な環境破壊を引き起こしていることが発見され、利用が停止されました。その結果、DDTの影響で、大分減ってきたマラリアの件数がまた劇的に増えてしまいました。いいかえれば、二つの状態(マラリアの発生と環境破壊)の最悪のところを取っているという状況を引き起こしました。
しかし、ビル・メリンダ・ゲイツ財団のお陰で、理想的な「三つ目の代替案」が生まれました。ロケット科学者が提案した蚊を撃つレーザーです。光学技術者が、DVDで利用される青色レーザーの実験を行い、コンピュータープログラマがレーザーを誘導するソフトを開発しました。その後、eBayで手に入れた部品でプロトタイプを作りました。
マラリア発生が問題になっている村の周りに、このレーザーを設置すれば、環境に優しい方法で蚊を退治できるのです。つまり、この解決法は、「蚊を退治し、同時に環境破壊を起こさない」という、真の意味のウィン・ウィンの結果をもたらすのです。
東北大震災が発生したときに、日本人の我慢強さが武器になりました。震災発生の直後の数日間、つまり、誰もその悲劇を完全に把握し、効果的に対応できなかった間、この我慢強さは「唯一最大の武器」だったかもしれません。
しかし、その悲劇から1年数か月が経った現在、日本人の我慢強さがむしろ復興の障害になっているのではないか。そういった懸念を、アメリカ人のわたしは抱いています。
今、必要なのは、「誰も完全に満足しない、そして、皆がしぶしぶ納得できてしまうような日本人の我慢強さに基づいている対応策」ではありません。
べての人が勝ち組に入る「三つ目の代替案」こそが、真に求められているのです!
The Third Alternative Special Training – Video 2
上記にリンクされるビデオはThird Alternativeを立案するプロセスを紹介します。その過程の各段階がビデオのスライドに示されますが、参考のため、下記に書き出しました。そのビデオを見ながら、各段階で、何を行うかを簡潔にまとめてください。このビデオ教材は、よい聞き取りの練習になるだけではなく、今後、実際の交渉の場面でも役立つことでしょう!
1. Ask
2. Define
3. Create
4. Arrive
<推薦図書>
本ブログの著者ジョセフ・ガブリエラと杉本有造は、両者ともにMBAの保有者であり、英語と日本語の両方でエレベーターピッチを実施する豊富な経験を有しています。くわえて、両者の経験を活かして、ビジネスパーソンに対して、仕事の現場で直ちに活用できるエレベーターピッチの技法について指導しています。エレベータースピーチのテクニックを習得したいと思われている方に、二人の共著『エレベーター・スピーチ入門~アメリカビジネスで成功するためのプレゼンテーション&自己イメージ作りの技法』を読まれることを強くお勧めします。
エレベーター・スピーチ入門/我龍社

¥1,890
Amazon.co.jp
このブログは、ジョーが執筆し、皆様にお届け致します。ジョーことジョセフ・ガブリエラは、2000年に来日したアメリカ人。格闘技ファンなら誰でも知てる、K-1ファイターのアンディー・フグ氏にそっくり!
1989年米国ペンシルベニア大学ウォートン・スクールを卒業。その後ペパーダイン大学を皮切りに、イリノイ大学、南フリダ大学を卒業。MBAを含め2つの修士号と博士号を取得しました。日米合弁IT関連企業、スイス系証券会社、米系銀行、そして日系外食企業など幅広い業界の勤務を通して様々なビジネス経験を積みました。趣味は、水泳、読書(村上春樹氏の大ファン!)、ピアノ、そして様々な国の言葉を勉強する事です。ちなみに、2年前から新たに中国語勉強に励んでいます!この記事についてのご質問、感想、また意見を歓迎します。また、共同研究者である杉本有造氏とともにコンサルティング業務も行っていますので、お気軽にご相談ください。
ジョセフ・ガブリエラ 博士/MBA
東洋大学
gabriella@toyo.jp
jjapan1802@yahoo.co.jp
「世界のどこでも働ける日本人になろう」
「アメリカ・ビジネスの最前線を切る!」
「Venture Into Japan」
杉本 有造 博士/MBA
IES全米大学連盟・東京センター
(The Institute for the International Education of Students, Tokyo)講師
gpmalibu@yahoo.co.jp
© 2013 Joseph Gabriella, Ph.D., MBA. All rights reserved. 無断複写・転載を禁じます。