今回の英文

High above the city, on a tall column, stood the statue of the Happy Prince.  He was gilded all over with thin leaves of fine gold, ...(O. Wilde, The Happy Prince)

今回は、某参考書レビューを見て気になった英文です。みなさんは、下線部についてどのように解釈しますか?

 

 

 leavesは「箔」か「葉っぱ」か

ふつうに考えれば、下線部は「幸福の王子の像を覆っている金箔」のことだと思われるのではないでしょうか。つまり、He was gilded all over with thin leaves of fine goldの部分の訳は「幸福の王子像は薄い金箔で全身覆われていた」という感じですね。解釈のポイントとなる事項をカンタンにまとめておきます。

 

①第1文はMVSの倒置文

②第2文の主語He = the statue of the Happy Prince

③第2文全体は受動態。もとの形はSomebody gilded him all over with thin leaves of fine goldのような文でしょう。今回の英文でも、以下の例文のようにgildがwith以下とセットで使われていることが分かります。

gild a picture frame with gold leaf

額縁に金箔をきせる                 

 

出典:『ジーニアス英和大辞典』

④all over「体中、全身」(副詞句)

⑤fine gold「純金」。fineは「何かの程度や質が高い[申し分ない]」と捉えておくと良さそう。健康の程度が高いなら「元気な」の意味、天候の良さが申し分ないなら「晴れた」の意味など。

[通例名詞の前で]上等[上品]な〈衣服など〉;洗練された;純度が高い〈金・銀など〉

She has fine clothes.

彼女は身なりがよかった

fine gold

純金

fine wines

高級ワイン

 

出典:『ウィズダム英和辞典 第3版』

 

で、ここの何が気になるかというと、leavesです。というのも、辞書をみるとleafが「箔」の意味になるときは不可算名詞扱いだという記載があるからです。

U.(金・銀などの)箔(はく)  

                  

出典:『ジーニアス英和大辞典』

U.金属の箔(はく)(!特に金箔・銀箔をさす)

                              

出典:『ウィズダム英和辞典 第3版』     

実際、不可算名詞は複数形をとらないことを根拠に、ここのleavesを「箔」ではなく「葉っぱ」の意と解釈する翻訳家の方もいます。

 

となると、やっぱりleavesは「葉っぱ」の意味になるのでしょうか。

 

ただこの解釈だと、純金製(あるいは純金を塗った)葉っぱをペタペタ張り付けたということになるので、個人的には違和感があります・・・。もしかして私が知らないだけで、『幸福の王子』はいわゆる金箔が存在しない世界観だったり?

 

 

 不可算名詞の可算化

ここでパッと思いつくのが、以下のcoffeeの例。
例1:
Two coffees, please.
コーヒーを2つ下さい

two coffeesは「2種類のコーヒー」という意味もあるが、普通は「2杯のコーヒー」

 
出典:『ジーニアス英和大辞典』

例2:
Do you want a coffee?
コーヒーはいかが?

 

coffeeという語は本来waterやpaperのように物質名詞なので不可算名詞ですが、これら2例では可算化されていて、それぞれtwo cups of coffeeとa cup of coffeeの意味です。このような使い方は従来の英文法からすると許容されにくいかもしれないですが、実際にはよく見かける表現ですよね(ちなみに、Google Books Ngram Viewerでhave a coffeeを検索すると1980年代以降急激に使用例が増加している様子が確認できます)。

 

また、いま挙げたpaperも本来物質名詞なので、ただの「紙」の意味では不可算ですが、「新聞」や「論文」などの意味では可算名詞扱いになるのもみなさんご存じの通り。ほかにも、本来抽象名詞(したがって不可算名詞)であるbeautyが「美人」の意味ではa beautyになるなど、「不可算名詞の可算化」は割とありふれた現象なわけです。


こういった事実を踏まえると、同じ現象が今回のthin leaves of fine goldにも表れていると考えたほうが筋が通るのではないでしょうか。つまり、pieces of gold leafの意味でleavesが使われているという解釈ですね。これが今回の一応の結論ですが、みなさんはどのように考えますか?

 leavesで「箔」の類例
 

最後に類例を1つ示しておきます。

 

次の例はDelafee (デラフィー)という、24金の金箔を使った高級チョコレートを製造するスイスの会社のHPにあった英文。該当ページでは金箔の歴史について説明がされていて、その使用例のひとつとして金閣寺が紹介されていました。

In 1950 a monk burned the place and by doing so gave a topic to the writer Yukio Mishima, author of The Golden Pavilion. It was rebuilt identically in 1955 and fully renovated in 1987 to ensure the sustainability of gold leaves that cover it.

(引用元: https://www.delafee.com/History+of+Gold/)

 

※該当箇所の試訳:「金閣寺は忠実に再現する形で1955年に再建され、また1987年には表面を覆う金箔を維持するため全面改修された」

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。