今回の英文(前回の続き)

(1)

Beth wouldn't go near downtown in case she saw Nick.

ベスはニックに会うといけないから繁華街には近づこうとしなかった。

 

出典:佐藤治雄 『英語必修例文600』

 

前回からかなり間が空いてしまいましたが、引き続き今回も英文(1)の下線部について考察していきます。

 

 

※(1)などカッコつき番号は前回からの通し番号

※色付き英文はすべてDeepLとChatGPTによるチェック済みの自作英文

※””は非文法的などの理由で文として成立していないこと(=非文)を表す記号

※"??"は容認度が低いと思われる文であることを表す記号

 

 

 前回の要点

①: (1)の下線部は for fear of seeing Nick またはいっそのこと because she might see[run into] Nick のようにしてしまった方がいいのではないかという疑問。

 

②: for fear (that) SV は in order to prevent something happening の意、つまり「起こりうる出来事そのものを回避・阻止する」場合に用いる、と捉えるのがどうやら有効そう。

 

③: たとえば、次の(3‐1)や(3‐2)においては、傘を持っていくことや保険に入ることが for fear 以下の出来事の発生を防ぐための対策になっておらず不自然であり、in case SV を用いるのが自然。特に雨などの自然現象はそもそも防ぐことができないので(3‐1)はなおさら不自然と思われる。逆に(8)では、「その家に近づかない」という行動が「獰猛な犬に襲われるかもしれない」という出来事そのものの発生を回避するための対策になっているので自然な文。

 

(3-1)※前回からの再掲

??We took our umbrellas with us for fear that it might rain.

出典:WordReference Forums

 

※"??"は容認可能性が低いと思われることを表します

 

(3-2)※前回からの再掲

??The man bought insurance for fear that he might get seriously ill.

 

出典:同上

 

(8)

They didn't go near the house, for fear that the fierce dog might attack them.

 

出典:同上

 

 

詳しくはこちらで↓

 

 

 

 

  「事後対処に向けた準備」という観点

in case SV をどう捉えるべきか考えるにあたって、まずは WordReference Forums の記事内にあったコメントを見てみます。

 

(9)

It would seem that "lest" and "for fear that/of" more strongly focus preventing something happening while "in case" (and "in the event that/of") focus on the potential that something may happen that it is out of the control of the listener or speaker.

 

出典:同上

 

※注

1)冒頭の It would seem... の would は would like to do などと同じ「控えめな考えを表すwould」

2)"...more strongly focus preventing something..."は正確には"... more strongly focus on preventing something..."となると思われます

3)文末の"...that it is out of...speaker"の箇所は後置された関係代名詞節なので"...that is out of..."とするのが正確と思われます

※試訳

「"lest"や "for fear that/of" は、何かが起こることを防ぐことに重点を置いているのに対し、"in case"(および "in event that/of")は、聞き手や話し手の手に負えないことが起こる可能性に重点を置いているように思われる」

 

もちろん注目すべきは、 in case SV は「聞き手や話し手では手に負えないことが起こる可能性」がある場合に使われるという点。ここでいう「手に負えない」というのは、「何かが起こることを防ぐことに重点を置いている」 for fear や lest との対比から考えて、「何かが起こることを防げない」ということを指すと考えていいでしょう。

 

要するに、(9)で言っているのは、

 

「起こりうる出来事そのものを回避・阻止する」場合に用いるのが lest と for fear (that) SV であるのに対し、in case SV を用いるのは「出来事そのものを回避・阻止できない」場合だ

 

ということになります。

 

では、良くないことが起こること自体を回避したり阻止できないとなれば、何をするでしょうか。

 

ふつうは、悪い出来事が起きてしまった場合の策である「事後対処」をあらかじめ考え、それに向けて準備することになりますよね。たとえば、地震が起こること自体を避けたり阻止したりすることはできませんが、もし地震が起こった場合にどう対応するか策を考え、その策を講じるための準備をすることは可能です。

 

このように考えると、 in case SV にはどうやら「事後対処を実行するための準備」の意味が含まれているといえそうです。

 

この観点でもう一度(3‐1)を眺めてみましょうか。

 

(3-1)※前回からの再掲

??We took our umbrellas with us for fear that it might rain.

出典:同上

 

※"??"は容認可能性が低いと思われることを表します

 

まず確認ですが、前述の「前回の要点」に書いた通り、for fear that SV がダメで in case SV を使うのが自然でした。具体的には、 全体が過去の文なので(10)のように in case it rained とするのが正解となります。

 

(10)

We took our umbrellas with us in case it rained. 

(雨が降るといけないから傘を持っていった)

 

このとき、(11‐1)にように書くと論理が破綻して非文になるので(10)の言い換えとしては不可です。実際、日本語にしても意味が通じませんよね。他方、(11‐2)のような言い換えは可能です。

 

(11‐1)

*We took our umbrellas with us in order to prevent it from raining. 
* 雨が降るのを阻止するために傘を持っていった)


(11‐2)
We took our umbrellas with us in order to prepare for rain. 

(雨に備えるために傘を持っていった)

 

このことから見ても、(10)の in case の部分には「事後対処を実行するための準備」の意味が含まれていると考えてよさそうです。

 

もう少し具体的にみると、(10)は

 

事後対処の発動条件: 雨が降ること

事後対処の内容: 傘をさすこと

事後対処に向けた準備の内容: 傘を持っていること

 

という構造になっていると考えられます。

 

もちろん、準備の内容は「事後対処」をするときに傘を所持していればOKなので、別にコンビニかどこかで傘を購入してもいいわけです。よって、以下のように言うこともできます。もし会話で使うなら、大体の場合は(12‐2)の方でしょうね。

 

(12‐1)

 I had bought an umbrella in case it rained.

(雨が降ったときのために、傘を買っておいた)

 

(12‐2)

 I've bought[I bought] an umbrella in case it rains.

(雨が降ったときのために、傘を買ってあるよ)

 

 

 in case SV は for fear SV の上位互換か?

(10)~(11‐2)での考察でいえるのは、in case SV には in order to prepare for something happening の意味が含まれるということだけで、for fear that SV がもつ in order to prevent something happening の意味も含まれるどうかは不明です。

 

もし in case SV が後者の意味も含むなら、in case SV は for fear that SV の上位互換ということになりますが、実際はどうなのでしょうか。


たとえば、(13)の in case you get lost は in order to prepare for getting lost の意味だけでなく、in order to prevent you from getting lost の意味にもとれるように見えます。

 

(13)

Bring a map in case you get lost.

 

出典:Cambridge Dictionary Online

 

 

実際、「迷わないように地図を持っていきなさい」という訳でも、「迷ったときのために地図を持っていきなさい」という訳でも日本語自体に違和感はありません。

 

そうだとすれば、

 

やっぱり in case SV には in order to prevent something happening と in order to prepare for something happening のどちらの意味もあるんだ!

 

と考えたくなりますが、次の(14‐1)をみてください。

 

(14‐1)

?? I'm leaving now in case I'm late.

 

出典:WordReference Forums

 

 

もし in case SV が in order to prevent something happening の意味も持つのであれば、(13)は I'm leaving now in order to avoid being late. や I'm leaving now in order not to be late. あるいは、I'm leaving now so that I won't be late. の意味でも使えることになるはずです。

 

しかし、この出典元では、(13)の英文は不自然だという指摘を何人ものネイティブがしています。

 

一方で、I'm leaving now in order to avoid being late. や I'm leaving now in order not to be late. のように言い換え可能なことからも分かるように、for fear of を用いた言い方が可能です(14‐2参照)。これには(11‐1)でみたような論理的問題もありません(for fear that SV の形ではないですが、本質は変わらないはず)。

 

(14‐2)

I'm leaving now for fear of being late.

(遅刻が怖いから、もう行くね)

 

ほかにも、(14‐1)と同様の不自然さは次の(15‐1)でも指摘されていました。

 

(15‐1)

?? I'm taking an umbrella in case I get wet.

 

出典:同上

 

日本語で「雨で濡れないように傘を持っていく」というのは全く違和感はありませんし、また、英語でも I'm taking an umbrella with me in order to avoid getting wet. のように言えるので(14‐1)もOKなようにも見えますが、実際は違うということですね。

 

こちらも(15‐2)のように for fear of を使えば問題はなくなります。

 

(15‐2)

I'm taking an umbrella with me for fear of getting wet.

(雨に濡れるのが怖いので傘を持っていくよ)

 

さて、(14‐1)~(15‐2)から分かることは、次の3点です。

 

 

①: in case SV には in order to avoid or prevent something happening の意味はない(少なくとも一般的な使い方ではない)

 

②: ①の事情から考えて、 for fear that SV(または for fear of something)の代わりに in case SVを使うことができない場合がある(しかも特殊な文脈においてではない)

 

③: ②の事情から考えて、 in case SV は for fear (that) SV の上位互換ではない。むしろ、両者は(少なくともある程度は)使い分けされる相互補完的関係にあると考える方が自然

 

 

したがって、さきほどの(13)についても、「迷ったときのために地図を持っていきなさい」と解釈するのが適切といえます。

 

(13)※再掲

Bring a map in case you get lost.

 

出典:Cambridge Dictionary Online

 

 

 

 

 ここまでのまとめ

ここまでのところで、in case SV と for fear that SV との違いが結構ハッキリしてきたので、軽くまとめておきます。

 

・・・とその前にひとつ補足ですが、次の(16)のように、 in case 以下には「嬉しい出来事」を表す内容がくることも珍しくありません。

 

(16)

He had his camera ready, just in case he saw something that would make a good picture.

 

出典:LDOCE Online

 

※試訳

「万が一良い被写体を見つけたときのために、彼はカメラを用意していた」

 

このことを考慮すると、in case SV の場合にはその内容がネガティブなものかどうかはあまり関係がないと考えておくべきでしょう。

 

ということで、とりあえずのまとめです。

 

 

【for fear (that) SV】 (≒ in order to avoid or prevent something happening)

主節の内容が指す行動が、恐れている出来事の発生そのものを回避するための対策、つまり「防止対策」になっている

 

【in case SV】 (≒ in order to prepare for something happening)    

主節の内容が指す行動が、ある出来事(ネガティブなことかどうかは不問)が起こった場合に対処するための準備、つまり「事後対処に向けた準備」になっている

 

 

実際、英英辞典などの用例をみてもこの意味で in case SV が使われていることが殆どです(もちろん、in case が if の意味で使われている例を除いてですが)。このことから考えても、in case SV を in order to prepare for something happeningと捉える見方は妥当性があります。

 


・・・今回はここまでです。次回は、上のまとめに当てはまらないような例外的な使い方を考察する予定です。

 

 

 補足

参考までに、in case SVが in order to prepare for something happening の意味であることをかなり明確に述べている辞典類のリンクを以下に貼っておきます。

 

 

 

 

 

 

 

補足は以上です。

 

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。