話は前後するが、2001年にプロレス史上最大とも言える激震が走る。言うまでもなく、元新日本プロレスレフェリーが出版した「流血の魔術・最強の演技 すべてのプロレスはショーである」だ。もしかしてそうかも知れない、でもそうだとは信じたくない、と真実には目を背けてきたファンが、全ての真実を知る事となった衝撃の本である。発売前から一部で話題沸騰であり、私も発売日に大き目な本屋に行ってまですぐに買ったものである。
私がまず思った事としては、「やっぱりそうだったか」である。プロレスを見ていれば不自然な動きや、あからさまにお互い合意の上で動いているだろう、的なムーブが嫌でも目につくので、子供でもその辺りには自然と気が付くものである。しかし、団体側から正式に認めていない以上、ファンもそれを信じる以外はないので、疑いつつもそうではないと信じていたものだ。しかし、これにより全てが真実の元にさらされる事になり、さらに猪木の異種格闘技戦の大半まで実はプロレスだった、と言う事まで暴露されてしまった。
確かに、格闘技戦の大半はお互い良い所を見せつつの攻防なのに対し、アリ戦とペールワン戦だけが、他と比べても明らかに異質である事は感じてはいたのだが、実はそういう訳だったのである。まあそう言う訳で、この本を読んでから数年はかなりプロレスに冷めてしまった事も確かだ。同時期にPRIDEが全盛期を迎えていた事も大きかった。
これをきっかけに、高田延彦が全てを語った「泣き虫」を始め、プロレスの真実を前提とした本がいくつも出版されていき、その影響でプロレス専門誌紙の部数も大幅に落ちるなど、プロレス業界はかつてないほどの大不況を迎える事となってしまう。まあ、普通に考えたらPRIDEがあそこまで出てきた時点で、これ以上真実を隠し通すのは不可能だと思っていたし、いずれはやってくるものだっただろう。
ただ、それでもルールが整備されていない時代に、アリとペールワンに真剣勝負を挑んだのは間違いないし、またそれを実践出来るほどアントニオ猪木の強さは本物だった、という事が改めて証明された事に関しては喜びであり、誇りでもあった。IWGPでの猪木失神事件や、伊勢丹前襲撃事件などの顛末には驚いたものの、当然猪木自身が真実を語る事もなく、WWEの台頭もあって次第に高橋本の騒ぎも沈静化していった。
しかし、猪木自身が未だオーナーを務めていたはずの新日本は沈下する一方であり、あの有名な大阪ドームへの介入や、悪名高きバトルロワイヤルの開催など、純粋にプロレスを見たいファン、そしてこれからの新日本を支えるはずの棚橋や中邑にとっては、正直煙たい存在となってしまった。社長交代も何度か起きた挙句、遂に株式をユークスに譲渡し、新日本の経営からは完全に離れる事となってしまう。