これまで散々述べてきたように、スリルよりもあくまで安全を選択するのであれば、海外旅行において英語力は必須である、というのが私の結論である。しかし、当然ながら地球上の全ての人間が英語を話せる訳でもなく、それは悲しいかなここ日本も含まれる。よって、非英語圏へと旅をする際には、ある程度現地の言語も学んでおく事も大切だ。
自分の場合、英語が公用語、もしくは事実上そうである国へ訪れたのは、アメリカとフィリピンである。後者の国語はタガログ語、セブではセブアノが第一言語とされているが、もちろん英語さえ話せればなんとかなるので、いずれの言語も、単語一つすら学んでいない。しかし、香港や台湾、そしてマカオなどはもちろんそうはいかない。香港は今なお英語が公用語であるが、英語話者は多く見積もっても40パーセント程度とされ、それも高等教育を修了した人たちに限られるために、中心街以外を訪れるならある程度広東語の知識もあった方がベターである。
もちろん、私自身大の香港好きなので、2度目の香港旅行を行う前には広東語の会話集などを購入して、ある程度は自分で学んだものだった。実際それで会話が成り立つレベルではないが、それでも何度か助けになった事はある。日本人が、日本に訪れている中華系の人たちを認識するのはそんなに難しくはないとは思うが、香港でいきなり私が日本人と認識される事はまずない。マクドナルドでも、セブンイレブンへ行っても、まずカウンターでは広東語で話される。
前者はまずカウンターへ行く際に、ハローと言えばほぼ英語で聞いてくれるし、また最近はセルフキオスクやモバイルオーダーも存在するので、言語バリアはほぼないと言っていい。しかし、コンビニだとレジで注文するわけでもないし、そしてやはりおばさん店員も多いので、都市部でも案外英語が通じない事も多い。商品を持っていくだけだから大丈夫なのでは、と思われるかも知れないが、大きめのセブンイレブンにあるインスタントのスパイシーヌードルは口頭で注文しなければならず、またその商品名の英語名も確か載っていなかった気がするので、ある程度英語力のない店員でないと厳しい面もあるのだ。まあ、さすがに尖沙咀辺りならば外国人も多いので、英語を理解出来る店員も多いのであるが、新界などへ行くとかなり難しい。
それは当然、同じく新界部分に含まれる離島でも当てはまる。私の好きな長洲島においてでも、高齢者を中心に英語が通じない事も多かったのであるが、さすがに観光地なだけあって英語話者も必ずいるので、それで詰まる事はなかった。しかし、島民ともなると話は別である。2013年に、レンタサイクルで島内ほぼ1周を果たした際に、何やら私にアドバイスをくれた現地民がいたのであるが、当然何を話しているのかさっぱり意味不明であったため、その時に初めて広東語で、「すいません、私は日本人です。広東語は話せません。」と言ったのだ。広東語の声調は9トーンあり、一般的に普通話よりも習得が困難とされているが、私の思う限り真似自体は広東語の方が簡単だと思う。それが功を奏したか、理解してくれたようで、正直気の毒ではあったがそこを離れてくれた。ただ、私的には片言の広東語が通じたのが嬉しくてたまらず、思わずすぐにFacebookに投稿したものだった。
その後も、そのぐらいのフレーズだったらすぐに反応できるようになったので、何度か同じ対応をした事がある。また、経験上数字の発音も最低20ぐらいまでは覚えておいた方が良いと思う。広東語の数字の発音は規則性があるので、十の位を覚えてしまえば、少なくとその法則を覚えてさえしまえば100まではなんとかなる。実際に会話で使用する機会は少ないのだが、尖沙咀の吉野家では口頭で呼び出し番号を言ってくるので、それが分からないとピックアップ出来ない可能性があるのだ。しかし、私は二桁の数字なら広東語で理解出来たので、無事受け取る事が出来た。確か36とかだったと思うので、広東語でサムサップロウと言った際、もしやと思ったらやはり自分のだった。これは現地語を覚えておいて大正解な例だった。
他にも、マカオで話しかけられた際、広東語で「英語は話せますか?」と尋ねた事もあった。あいにく、マカオでは香港ほど通用はしないので、その方も分からなかったのであるが、まあこれも現地語が話せて良かった例だろう。また、チャイナタウンの記事でも書いたかと思うが、フラッシングのチャイナタウンで中国系の老婆に話しかけられた際、広東語で「すいません、私は日本人なので広東語は話せません」と咄嗟に話した際、そこを離れてくれたという事もあった。まさかNYCにおいて広東語が役に立つとは思わなかっただけに、これも私を救った例である。
しかし、広東語圏では何とかなっても、大陸ではそうそう簡単にはいかなかった。広東語と普通話では、習得のモチベーションに違いがあるし、何より後者の発音はかなり難しく、ちょっと違っただけでも通じないか、全然違う意味となってしまう。もちろん、アプリで勉強したり、成田空港の本屋で会話集を買ったりもしたのだが、その発音の難しさもあってどうしても口ごもりがちになってしまう。それに、私が初めて深センへと訪れた際は、まだ反日デモから1,2年程度の頃だったので、「私は日本人です」なんて言える雰囲気ではなかったのだ。
まあ、ぶっちゃけ深センは極めて平穏であり、それだけで怒る大陸人もそうそう居る訳もないのであるが、それでもそんな例もない事はないだけに、やはり堂々と日本人と名乗るのは怖い。ただ、それでもそれなりに片言の普通話は役に立った事もあり、日本に訪れている中国人に「英語は話せますか?」ぐらいだったら通じた事があったので、「おお通じた」と若干嬉しくなった事もある。
まあ実際、非英語圏を訪れる人たちは、それなりにその国に興味があるからこそ訪れる訳であり、さすがに何の準備もなしに行く事はないだろう。また、中華圏であれば文字で意味自体は分かるので、最終手段としては筆談もある。なので、本当に準備が必要なのは、やはりロシア語圏やスペイン語圏、そしてアラビア語圏など、日本人にとってはまるで馴染みのない言語圏だと思われる。なので、YouTubeでもたまに見かけるが、そんな国々を一人旅する人たちは単純に凄いと思って見てしまうものだ。