しばらく駅周辺を探索してみる事にしたが、あいにく電気街らしい通りは見つからず、地図を見ても良くわからなかったので、結果的にかなりの時間と体力を消耗してしまった。後で分かった事だが、最寄りの駅は別の地下鉄の華強北駅だったという。デパートの中でフリーWi-Fiは使用可能であったが、日本のウェブサイトを開く術が見つからず、結局そこに行くのは断念する事にした。
その間、駅直結デパートにマクドナルドが入っていたので、中を覗いてみたが、ビッグマックのセットが35元、日本円で530円ぐらいであった。これは現地のフードコートで中華料理が5元ぐらいから買える事、そして平均的月収を考えたらどえらい高さだ。日本で言えば、シェイクシャックなどのちょっとお高いバーガーを買うような感覚に近いのだろう、少なくとも庶民が気軽に食べるような価格ではなかった。また、MGRのみユニフォームが日本と同じ、というのも新しい発見であった。
その他にも、サブウェイやスタバ、HMやそしてユニクロなどの外資系企業が固まっていたが、別に用もなかったしこれらは中国だからと言って言語以外異なる要素も少ないので、覗く事はなかった。
そして、何よりこの周辺で目についたのは、日本で言えばウーバーイーツや出前館的なフードデリバリーの多さだ。日本でも主流になりつつあり、都内で見かけない日はないぐらい浸透しているが、はっきり言って深センではその日ではなく、それこそ3秒に1度ぐらいのペースで見かけたものだった。これに関しては前に記事を読んだ事があって存在は知っていたのだが、それはそれは予想をはるかに超えるレベルの浸透ぶりだった。確かに、これなら死亡事故が絶えない、というのもうなずけたものであった。
そこからは、前にも来た鄧小平の壁画をもう一度見ておくか、という事で地下鉄で最寄りの駅へと向かった。この駅は深センでも随一のショッピングセンターと直結しており、それは日本や香港のそれと比べても全く劣らないレベルの近代的ビルディングであった。そこでトイレに行ったのだが、手を洗った後にペーパーで完全に水分を落とさず、水滴がフロアに溢れてしまった。
水だし、別に気にするようなレベルでもなかったのだが、中華圏に必ず居るハウスキーパー的なおじいさんが、それを指差して私に何やら話しかけてきた。もちろん、意味は理解出来なかったが、完全に拭かずに水滴が落ちた事を咎めてきたのだろう。別に激怒、という感じではなかったが、しばらくして自分が外国人であると言う事に気付いたか、笑顔で「もういいよいいよ」みたいな感じで肩を押してくれた。
まあ事案としては大した事でもないと思うのだが、さすがに胸が痛んだ。普段、日本人や香港人は大陸中国人を毛嫌いする人たちが多く、確かに海外旅行者としてマナーに問題があるのも事実だ。しかし、いざ中国に入国してみると、その人たちも普通に日常生活を営んでいるひとりの人間たちであり、皆が皆常にトラブルを起こしていたり攻撃的であるはずもない。そのおじいさんの笑顔を見た時に改めてそれを強く実感し、同時に普段中国人に偏見を抱いている自分に対して物凄い慚愧の念を抱いたものだった。
そんな思いを馳せつつ、地上へと上がっていったが、出口がどこにあるかわからなかったために裏口っぽい場所から外に出てしまった。KK100と言う、深センでも屈指のタワービルディングに直結しており、さらに6年前に来た事もあったので、迷子になる事はなかったが、結果的にさらに余計な時間と体力を消耗してしまったものだった。
数分歩いた後、なんとか鄧小平の壁画にたどり着き、写真を撮るとまたすぐにそこを後にした。地図を見ると、最寄り駅は同じく6年前に足を運んだ展望台のあるビルの側だったので、そこに行こうと思ったがいざ目の当たりにするとかなり遠くに感じた。別の入り口からは近かったので、一旦地下鉄の駅に潜ってからまた上に上がっていったが、英語表記は皆無だしいくらかも不明だったので、前にも来たから別にいいか、と思いさっさと引き返してしまった。
その時点ですでに昼を過ぎていたので、メインの目的である中華料理のために老街へと向かった。ここは深センに来る度に必ず行く場所であり、中華料理を堪能するには最も手軽な場所であるからだ。正式な名所は東門食堂街、みたいな感じだったと思うが、多少洗練されていたかなと思った程度で様子はほぼ当時のままだった。
しかし、決定的に違うのは、言うまでもなく全店がQRコードを出していた事だった。先述のよう、外国人がキャッシュレスを使用するのは非常に困難であるため、本場の中華料理を目の前にしながら食べれないままで終わるのか、と思っていた所、数店のお店がお釣りや、銀聯カード用のセンサー?を手にしている事に気付いた。
「これはもしかして現金もOKなのか?」と気付いた私は、早速美味しそうなものを物色し始め、最初に目についたものがNYCのチャイナタウンでハマったサワースープだった。
ここでは価格が表示されていない事が多く、当然英語も無理、さらには普通話の会話集なども今回は用意してこなかったので、全てゼスチャーで通した。普段とは真逆の展開ではあったが、指差しすればどうにでもなったためにようやくお楽しみにありつく事が出来た。
もちろん、札は100元しかなく、過去にATMから偽札が出てくる、なんてニュースもあったので不安もあったが、かろうじて本物だったようで普通に受け付けてくれた。お釣り見ると93元、そこで初めて7元と気付いた訳だが、その時は1元16円だと思っていたので、110円ぐらいだと思っていた。しかし、数日後の明細を見て驚き、現時点のレートは1元が15円、つまりわずか100円程度だったのだ。
横浜の中華街にでも行けば同じのが飲めるかも知れないが、間違いなくこの価格では買えないだろう。それ考えたら中国の物価はまだまだ安く、この価格ならマックなどに行く意味は全くない、と思ったものだった。
しかし、ここでチャーハンなどを頼んでしまったら、それだけで満腹となってしまうので、フードコートでは少量のものをいくつか頼んで行くのが楽しむコツだ。しかし、それでも39元使った所で限界を迎えてしまった。日本円にしてわずか600円弱、これだけでたらふく食べる事が出来たらそれはもう満足だった。
それが終わればもうやる事もなかったので、後はもう香港へと戻るだけだ。老街からはボーダーであるLo Wuがすぐなのであるが、最も有名なボーダーであるために人の波が絶えないので、あえて逆戻りして福田口岸から戻る事にしていった。
こちらも予想以上に人波が凄かったが、ほとんどが香港人のようで外国人のイミグレはさほど混雑はしていなかった。デパーチャーカードを記入し忘れ余計な時間を費やし、さらにパスポート撮影時から大幅に減量した事で、明らかに顔が違う事からインスペクターに何度も顔を確認された時は冷や汗を書いたものだったが、かろうじて出境して無事香港へと再入境する事が出来た。
深セン川を渡りきった瞬間から香港の回線が入るので、すぐにネットに繋げたがなんとまたもや衝撃の事実、AEを除くMTR全線が18時で打ち切りと言う事だった。深センからの帰りは常に夕方であり、その時点でもまだ16時前だったので余裕で間に合ったのだが、もし18時以降であればバスかタクシーしか選択肢はなく、もちろん尖沙咀までは40キロ近く離れているのだから、とんでもない手間と時間を費やす所であった。
しかし、間に合ったとは言えEast TST駅も閉鎖中、つまりホンハムから歩いて帰らなければならなかった。そこから重慶大厦に戻るのは容易いのではあるが、それでも尖沙咀駅からはかなり歩く。プロテスターたちがMTRを標的にしている理由はリアルタイムで追っていたし、その気持ちは分からない事はないのであるが、だからと言って公共物を破壊していい正当な理由にはならないし、これに関してだけは怒りがこみ上げてきたものだった。
それからは部屋に戻って一休みしていったが、最初は不安の方が大きかったものの、終わってみれば今回の旅行において最も印象に残る思い出となった。1日だけとは言え、言語やネットの障壁を乗り来られた事に対しては大きな自信にも繋がったし、次はもう少し具体的なプラン、そしてある程度普通話を覚えたうえで挑んでいきたいものだ。