ある寒い日の昼過ぎ。


電車に乗っていると

若い女性がひとり隣の席に座った。
女性はゴムサンダルをはいていた。

こんな寒い日にどうして素足なんだろうと、いぶかりつつ。

ふと足を見ると、足の指に指輪がついている。


なるほど!
このためか。


きっとこの指輪は婚約指輪で。
相手の男性は、彼女を驚かせようと

内緒で指輪を買いに行ったのだろう。

宝飾品を買ったことなかった男性は、

初めての貴金属販売店で指輪のサイズを尋ねられ、

大いに狼狽した。


彼女の指は何号?


彼は羞恥のあまり適当なサイズを口にしようとした。

けれども、彼女の笑顔が浮かんで。
もう一歩勇気を出して、

いつもつないでいる彼女の手を思い出しながら、

懸命に店員さんに説明して。


そんなこんなで、やっと買った指輪。


プロポーズの言葉とともに。

いざ彼女に手渡してみると、サイズが合わない。


一瞬、喜びの空気が引いて、彼は唇を噛んだ。


でも。

彼女は笑って。

「ここにならピッタリ」


足の指にはまった指輪。

「ね?」と声をかけられて

やっと「ごめんね」と彼は一言。

きっと、この日は彼と結婚指輪を見に行く日で。

彼に見えるように寒いのを我慢してサンダルで。

あぁ。いじましいなぁ。

勝手に泣けてきたある寒い日の昼過ぎ。