さて、と。
ダイニングのテーブルに、紙とボールペン。
ワタシは腕組みをして座った。
いい。
執筆活動をしている。
今のワタシはいい雰囲気に違いない。
腕組みをしたまま、客観的に自分を想定する。
気難しそうな顔。
たまに嘆息。
ワタシは我慢できなくなって
姿見の鏡を寝室から持ち運んできた。
作家の顔をしたワタシ。
いい。
自分に見とれる。
それは初めての経験だった。
いっそのことベレー帽も買ってみるか。
ちょっと高級感のあるものがいい。
…いや、もう百貨店は懲り懲りだ。
さて、と。
気持ちが盛り上がってきたところで。
書き始めようか。
…さて、と。
何をどう書いたものか。
官能小説なのだから、大方
性行為について書かなければならないのだろう。
ワタシは自分の性遍歴を思い返してみた。
初めてのときは。
そう。あまりうまく出来なかったような。
それで何度も何度も謝って。
どうも、官能の題材には遠い。
どこか特殊な場所でしたこと。
ない。
何か特殊なシチュエーションでしたこと。
も、ない。
何か道具を使ったこと。
も、ない。
よく考えてみると
ワタシは妻以外の女性を知らなかった。
幾度となく身体を重ねてきたけれど。
記憶から出てくる性行為はどれも淡白だった。
それぞれの行為の最中には興奮していたが
いざ書くために客観的に思い出すと。
やはり、それは行為だった。
ドラマチックさやロマンもなく
わざわざ官能小説に書くには足りない。
そうだ。
行為だけではダメだ。
ワタシは体験から官能を求めるのをあきらめて
題材を外に探すことにした。
まずは、レンタルビデオ店に行ってみよう。
(第四夜につづく)