息がきれる。
ねっとりとした汗がシャツと肌を密着させて
推進力をそぐような錯覚にとらわれる。
早く。
早く行かなければ。
ようやく目的のモータープールが見えてきたとき。
入り口に彼女を見つけた。
真っ赤なビキニを身にした彼女は
この上なく美しく。
危機をひととき忘れて
手をとりあったあの日を僕に思い出させる。
「おじさん、このプールの入場券はどこで買うの?」
入り口の男性はどぎまぎしながら。
「な、何を言っとるんだね、チミは?」
一足遅かったか…
「チョメ子ぉぉぉぉぉッ」
僕は大きく手をふりながら
彼女に向かって走り寄った。
「チョメ吉さん!? どうしてここに?」
「きみを…ハァハァ…追いかけてきたんだ」
息を整えながら彼女を真っ直ぐに見て。
「ここは、プールじゃないんだ。駐車場なんだ」
彼女の瞳は一瞬大きく見開かれて。
視線はすぐに下降していった。
「結局。結局間違えるのはいつも私なのね」
乾いたコンクリートにポツリポツリと涙の染み。
それを見て僕は
自分がどう彼女を愛するべきだったか気付いた。
「キミは間違えてないさ」
僕はおもむろに服を脱ぎ捨てた。
全裸になって、モータープールへ走って入る。
何だ。こうすれば良かったんだ。
正しいことが、いつも愛情になるワケじゃないんだ。
「チョメ子ぉぉッ!愛してるぞ!」
僕はモータープール二階から下に向かって叫んだ。
(この先どうしよう?と悩みながら 第八夜につづく)